こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビューティフル アイランズ

otello2010-05-13

ビューティフル アイランズ

ポイント ★★*
監督 海南友子
出演
ナンバー 110
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ゴンドラに乗った歌手がギターの伴奏で高らかに歌いあげ、宮殿をそのまま改装し本物の美術品に囲まれたホテルのロビーからは歴史の重みが醸し出され、カーニバルの季節には仮面に素顔を隠した男女がダンスに興じる。そんな中世の街並みと雰囲気を残す水の都にも警報と共に高潮が押し寄せる。次第に水浸しになるサンマルコ広場、街の人々が即席の高架歩道を組み立ている間にも海水は街中に侵入し、ホテルや商店まで蝕むが、市民はゴム長靴にはきかえて対応する。水没しつつあるベネチア、もはや彼らには慣れっこになっているのか、その光景はどこか日常の延長のようだ。破滅は突然やってくるのではなくじわじわと予兆をはらんで忍び寄ってくる、危機感の希薄さが逆にその恐ろしさを増幅する。


南太平洋のツバル、テレビも電話もない小さな島で子供たちが海と親しんでいる。学校では地球温暖化による海面の上昇で島が水没するかもしれないと生徒たちに教えているが、ほとんどの人々は神を信じ助けてくれると考えている。一方、極北のアラスカの小さな町では永久凍土の上に建設された家が地盤の容解によって基礎が崩壊し、島民全員の移住が住民投票で決定される。


映画は環境保護団体のヒステリックな抗議や学者が集めたデータ、また滅びゆく動植物といった扇情的な紋切り型の映像は一切使わず、ただ変わりゆく人々の生活を淡々と追う。作家自身が自分の思想を押し付けるのではなく、人が住む土地が海水に浸食されていく様子を伝えることで、環境保護は自然を守る以上に人間の豊かな暮らしや文化的遺産を守ることであると見る者に気付かせる手法は洗練されている。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、映像に鮮やかな色彩やクリアなコントラストがないのが残念。ツバルの透明な海やどこまでも高い空、ベネチアの建築や衣装、アラスカの雪原など、もっと被写体が色彩を主張してもよいはずだが、全体的にどこかくすんだ印象がぬぐいきれない。もしかして、観光用の美しく撮影・加工された画像・映像を意識に刷りこまれている観客に対し、このくすみこそが実際に人間の目で見た風景の色合いであると監督は言いたかったのだろうか。。。