こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

約束の葡萄畑 

otello2010-07-10

約束の葡萄畑 THE VINTNER'S LUCK


ポイント ★★*
監督 ニキ・カーロ
出演 ケイシャ・キャッスル=ヒューズ/ ジェレミー・レニエ/ヴェラ・ファーミガ/ギャスパー・ウリエル
ナンバー 164
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


土壌を吟味し、苗を植え、接ぎ木をし、新芽を霜から守る。葡萄を育て、醸造し、自分だけの最高のワインをつくりだそうとする男。その努力は本人の力を越え、スピリチュアルな域に達している。革命的な変化をもたらすには人知を超越した“霊感”が必要であり、彼にとってそれは背中に大きな白い翼をもつ天使として出現する。辛酸をなめる苦労や胸が張り裂けそうな悲しみ、一方で家族に恵まれた幸福や成功の喜びなど、芳香や味わいに作り手の生き方が濃厚に反映されるワインの豊饒が、丁寧に撮影された映像に焼きつけられる。


葡萄農夫・ソブランが畑で酔い潰れていると天使が現れ、葡萄の苗木と助言をもらう。数年後、自家製のワインを完成させ領主に献上すると、領主の姪・オーロラに気にいられ、ワイナリーを任されるようになる。


芳醇な香りと口に広がる味わい、のど越しのまろやかさ、目隠しをしたオーロラに「利き酒」させるシーンはソムリエの原型を思わせる。それはまさにワインが嗜好品から芸術にまで高められた瞬間。心に湧きあがった感情を具体的なイメージに置き換える作業は、土の匂いや木の肌触りといった大地の恵みに思いをはせる想像力と、手塩にかけたた人間の人生を受け入れる感受性が要求される。そしてそれらを言葉にするだけのボキャブラリーには知識や教養も求められるのだ。飲み手と作り手の真剣勝負、ワインの奥深さが端的に表現されていた。


◆以下 結末に触れています◆


天使は時にヒントを与え時にやさしく抱きしめるが、ソブランが戦場で飢えても娘が病気になっても救いの手を差し伸べない。しかし、羽根という具体的な証拠を残したり、妻やオーロラに姿を見られたりもする。さらにはソブランに翼を切り取らせて人間になる決意をする。この天使の存在が、ソブランの物語にイマジネーションをもたらしたた半面、具体的な肉体を持ってしまったせいで陳腐になってしまったのも確か。ソブランのワインの製造術は、最後まで天使の姿で神秘のベールを纏っていてほしかった。