こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

BECK

otello2010-08-28

BECK


ポイント ★★
監督 堤幸彦
出演 水嶋ヒロ/佐藤健/桐谷健太/中村蒼/向井理/忽那汐里
ナンバー 202
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


鼓膜を突き破るような透き通ったテノールなのか、腹の底に響くような張りのあるバリトンなのか、ミュートされた主人公の歌声で見る者の想像力を刺激しようとする。ロックで世界を革新しようとする若者たちの覚醒から成長・挫折を経て栄光をつかむまでの成功譚は、予想にたがわぬ素晴らしい出来。平凡な高校生がロックと出会って人生を変えていくという手垢のついた骨格ながら、彼の自立と恋などを絡めたエピソードもてんこ盛りで、2時間半近い上映時間を一気に見せる展開は息つく間もないほど疾走感にあふれている。


退屈な日常を送っていたコユキは竜介と知り合ってギターを始める。みるみる上達したコユキは竜介が率いるバンド・BECKに参加し、その美声でボーカルに抜擢される。やがてライブハウスやYouTubeで人気が出たBECKは音楽祭に招待される。


コユキの運命と必然に加え、竜介の過去と秘密、それぞれのメンバーのバックグラウンドなどもさらりと触れ、よく練り込まれた脚本と個性豊かな俳優、滑らかな語り口のおかげでキャラクターに馴染みのない者でもすんなりと映像を楽しむことができる。そこには青春のあらゆる情熱ときらめきが凝縮されていて、音楽が生活のすべてという若者たちの独特の世界観が見事に投影されていた。


◆以下 結末に触れています◆


しかし、映画のいちばんの肝であるコユキの歌声を隠し通した意味はどこにあるか。具体的に表現することで原作の持ち味を壊してしまうのを恐れたのか、ならば彼の美声を再現するところから映画作りを始めるべきではないだろうか。映画に登場するライブ会場のオーディエンスと同じ感動をスクリーンのこちら側にいる者も味わいたいのに、いつまでたってもお預けを食ったまま。いつかはその声を聴けると思う気持ちをこの映画は裏切り続け、結局エンドロールが終わってしまう。声のないコユキの歌に最初は戸惑い、次に不安にさせ、今度こそはと期待を持たせた挙句最後に落胆させる。これを確信犯でやってのけた堤幸彦に対する、たまりにたまったフラストレーションのはけ口はどこに求めればよいのやら。。。