こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う

otello2010-09-03

ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う


ポイント ★★★★
監督 石井隆
出演 竹中直人/佐藤寛子/東風万智子/井上晴美/宍戸錠/大竹しのぶ
ナンバー 209
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男を憎み人生を恨み、なんとか“過去”という傷を消し、“現在”という地獄から抜け出そうとする女。可憐で清楚な笑顔の裏に隠された壮絶な体験は、彼女に本心をベールに包んで生きる自己防衛本能を身につけさせる。そして思わぬ瞬間に牙をむく、研ぎ澄まされた邪悪。それは自分を苦しめたすべての人間に対して募らせる憎悪と憤怒が入り混じった復讐の炎だ。そんな、おぞましいまでの情念と怨念を持つヒロインを佐藤寛子が大熱演。ある時は気弱そうに、ある時は純真に、ある時は狡猾な、ある時は鬼気迫る般若の表情で演じ分け、恐ろしいまでの凄みを見せる。


保険金殺人を繰り返す母・あゆみと姉・桃の手伝いをさせられているれん。ある日、殺した老人の腕時計を探すために、れんはなんでも屋の紅次郎に連絡する。紅次郎が無事見つけたことから、今度はタエという女の情報を集めさせる。


いきなり老人を包丁でメッタ刺しし、風呂場で解体する凄惨なシーンから始まる。下着を真っ赤に染めながら死体を粉砕していく女たちを見ていると、思わず血なまぐささにむせかえるような気分になる。一方で彼女たちが絞殺死体を放置する石切り場は濃厚な死の気配がするものの、静謐な清潔さに満たされている。この正反対の「死」のイメージがれんの心に巣食っているかのよう。激情と冷静さ、どちらも持ちながら結果的には死に直結するが、それはれん自身が選ばざるをえなかった道。そんなれんの魔性に紅次郎はずるずると囚われていく。


◆以下 結末に触れています◆


実父に犯され性風俗を転々としたれんの半生を紅次郎があぶりだす。実ははれんからの依頼でもあるのだが、その過程で紅次郎はれんを救いたいと思うようになる。全裸のれんを前にし、豊満かつしなやかな肢体の虜になっていく紅次郎の男の性、罠とわかっていても飛び込まずにいられない悪魔のささやきだ。物語はさらに破滅に向かって暴走していくが、最後までれんの良心を信じた末、願いを果たせず抜けがらのようになった紅次郎もまた、人間の業の深さ、「生」の哀しみを象徴していた。