こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ANPO

otello2010-09-07

ANPO


ポイント ★★★
監督 リンダ・ホーグランド
出演 会田誠/朝倉摂/石内都/風間サチコ/池田龍雄/加藤登紀子/串田和美
ナンバー 190
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


50年の歳月は事件を記憶から歴史に変えるには十分な時間。写真や映像、新聞・雑誌記事などの記録はふんだんにあるが、生身の体験を持つ人々はほとんどが古希を過ぎるか鬼籍に入っている。思い出を語る老人たちは、動乱のさなかに自分たちが身を置いたことに青春の輝きを見出し、生きた証に美化して、敗北ですら人生の勲章のようになつかしむ。映画は1960年の安保闘争をテーマに、あの夏、日本人が何を考えどう行動し、残された負の遺産が21世紀にどのような影響を与えているかを検証する。そこには日米戦争の敗戦から今日に至る、日本の戦後が凝縮されている。


60年、日米安全保障事情約の更新を目論む岸信介内閣を倒すために多くの若者が東京に集まり国会前をデモ行進する。その様子をアーティストはどう受け止め、どう表現したか。歌手、画家、舞台芸術家、ジャーナリストへのインタビューを交えて安保を振り返る。


「民主主義を私たちが守るのだ」といった高揚感とともに、ある種のお祭り騒ぎに参加しないと乗り遅れる焦燥感が当時の若者の間にあったに違いない。それはおそらく、スケールの違いはあれどサッカーW杯での日本勝利に狂喜乱舞する現代の渋谷の若者と共通したものだろう。政治的な意図よりも皆で一緒に興奮状態を共有するのが大切だったのだ。大上段に構えた政治的な発言を繰り返す他の証言者の中で、加藤登紀子の「あ〜うれしいという感じ」のひとことが一番しっくりと理解できる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて安保条約は自動成立し、散乱する靴や紙くずが「民主主義の敗北」を象徴する。直後、「デモは終わった就職だ」という言葉がはやった事実が、結局あの時代の学生たちもエネルギーのはけ口を求めていただけだったのではと思わせる。就職難が非常に深刻な現在、少なくとも己の将来に関しては今の大学生のほうがよほど真剣に考えているように思えた。