こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

七瀬ふたたび

otello2010-09-15

七瀬ふたたび


ポイント ★★*
監督 小中和哉
出演 芦名星/佐藤江梨子/田中圭/前田愛/ダンテ・カーヴァー/今井悠貴/平泉成/吉田栄作
ナンバー 188
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


超能力を持って生まれたがゆえに実の両親からうとまれ、大人になってからは周囲の人々に白い目で見られる。常人が「こんなことできたらいいな」と考えるような特別な力も、生まれついて身につけていると、偏見の対象となり自分自身を否定する原因となる。そんな能力者たちの「なぜ望みもしない能力があるのか」という苦悩がリアルに再現されている。映画は彼らを危険視して抹殺を目論む国家組織と、逃げ回りつつも共闘する超能力者の戦いを通じて、異質なものを排除する人間の心理の恐ろしさを描く。


他人の心を読む能力を持つ七瀬は殺し屋に命を狙われ、一緒に行動していた友人が身代わりに殺される。七瀬は過去に戻る能力者・藤子の力で友人が殺される前に時間をさかのぼるが、そこでも謎の特殊部隊が待ち受けている。


感度の悪いフィルムで撮影されたようなくすんだ映像は、七瀬ら抑圧され息をひそめている超能力者たちの眼に映る光景なのだろう。常に警察を越えた権力に脅え、サバイバルのために仕方なく能力を使い、時には念動力者・ヘンリーの力を使って相手を殺さなければならない。そして手を血で染めた事実にますます自己嫌悪に陥ってしまう。己が「存在してはならない人間」とつい思いこんでしまう七瀬や、七瀬に「切り札」と言われつつも自らのパワーに何の価値も見出せない藤子の姿は、ひきこもり青年のような自尊心を保てない寂しさがにじみ出ている。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、権力の手先となって七瀬たちを追う特殊部隊が非常に素人ぽくて興をそぐ。空港のエスカレーターで狙撃するし、水族館で七瀬と藤子を包囲する時も動きがもっさりとしている。この辺りをきちんと処理しないと、七瀬たちが体験する恐怖が伝わってこないではないか。やがて、息を引き取った七瀬を抱えた藤子が再び過去に戻って七瀬を生き返らせるが、そこはそれまでと違って風景の色彩が鮮やかな世界。七瀬は生まれ変わっても戦う運命を選び、自らの手で未来を切り開いていこうとする決意がわずかに希望をもたらしてくれた。