こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ふたたび

otello2010-09-17

ふたたび


ポイント ★★★
監督 塩屋俊
出演 財津一郎/鈴木亮平/MINJI/青柳翔/藤村俊二/犬塚弘/佐川満男/渡辺貞夫/古手川祐子/陣内孝則
ナンバー 204
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


奪われた人生を取り戻すために老人は旅に出る。想いを寄せ人はすでにこの世を去り、全盛期の自分を知る者もいない。それでもやり残したことを成し遂げるまでは死ねない、そんな彼の願いが回りの人間を動かしていく。いわれなき差別への憤懣と悲しみをトランペットにぶつけて耐え、決して若いころの自慢話や、国や世間に対して恨み事を口にしない主人公の前向きな生き方が心地よい。もはや余命はわずか、ならば悔いなきよう残り時間を使いきろうとする割り切りが物語を明るくしている。


ハンセン病隔離施設で50年間暮らしていた健三郎は、収容前に出演依頼があったライブハウスでの演奏を実現するために、孫の大翔を伴ってかつての仲間を訪ね歩く。その一方で彼が唯一愛した女性・百合子の思い出がよみがえってくる。


大翔の彼女が見せるハンセン病に対する態度が現代におけるこの病気に対する一般的な反応だ。一応、「らい予防法」なる悪法で患者が苦しめられてきた歴史は知識としては身につけているし、偏見を持ってはいけないと頭では理解している。だが実際に恋人の祖父がハンセン病患者である現実を前にすると、言葉にできない恐怖に怯えてしまうのだ。まして、「恐ろしい不治の病」といった誤解が残っていた時代、健三郎の子を産んだ百合子が味わう苦悩と苦痛は想像を絶するもの。健三郎の命がけの行脚は、彼のせいで不幸な死に方をさせてしまった百合子の鎮魂の旅だった事が明らかになっていく。


◆以下 結末に触れています◆


健三郎の、大翔や看護師といった若者に媚びない頑固さが魅力的だ。扱いづらい部分もあるが、人間関係を大切にするところもある。言いたいことを我慢して意固地になるときもあるが、相手の気持ちを思いやる優しさも持っている。怒りや憎しみといった感情は50年という歳月の彼方に置いてきたのだろう。大学でジャズ演奏をしている大翔に、半世紀手放さなかったトランペットを託し、確かに己の思いが受け継がれたのを確認する。生きてきた歳月は決して無駄ではなかったと感じて息絶える、その表情は百合子と再会できた歓びに満ちていた。