こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミックマック

otello2010-09-23

ミックマック MICMACS A TIRE-LARIGOT

ポイント ★★★
監督 ジャン=ピエール・ジュネ
出演 ダニー・ブーン/アンドレ・デュソリエ/オマール・シー/ドミニク・ピノン/ジュリー・フェリエ/ニコラ・マリエ/
ナンバー 226
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


不幸な生い立ち、不運な出来事、生きる希望を見失った男はただ漫然と日々の糧を得るために街を放浪する。そんな時出合った仲間たちは、彼の家族となり、彼から人生を奪った男たちへの復讐を手助けする。映画は、社会からはじき出された人々が、人の命を奪う道具で金儲けをしている人間に対して強烈なしっぺ返しを食らわせる姿を描くが、その過程はスリリングともエキサイティングとも程遠く、非常にのどかでユーモラス。それはコメディとファンタジーが入り混じったシュールな世界。独特のビジュアルにユニークな色彩がちりばめられ、絵本の中に迷い込んだような不思議な感覚にとらわれる。


発砲事件の巻き添えで重傷を負ったバジルは家も仕事も失う。ある日、廃品回収業者のプラカールに声をかけられ彼の棲家に連れて行かれるが、そこには様々な特技を持つ男女が暮らしていた。


バジルは偶然父の死の原因となった兵器会社と自分を傷つけた銃器メーカーの存在を知り、その社長たちへの仕返しを目論む。そこでいろいろな分野の専門家である同居人たちに役割分担させるのだが、彼らのおかれた立場が共感を呼ぶ。とびぬけた才能を持ちながら生かす受け皿がなく、やむを得ずプラカールのもとに身を寄せている。その能力がバジルの目的のために発揮できると知ると、彼らは俄然張り切るのだ。特に“人間砲弾”という何の役にも立たないギネス記録を持つ男が、バジルの作戦行動中に失敗するが、それでも少しはバジルの助けになっている。その、「役に立たない人間などいない」という温かい視線が全編を通じて貫かれ、憤怒の炎よりも仲間を信じ事を成し遂げる素晴らしさを訴える。


◆以下 結末に触れています◆


手足が欠損した子を持つ母親、父親を亡くした子供。バジルたちは彼らを代表して、戦争を飯の種にし武器兵器を売り歩く死の商人たちに断固として“NON”の意思を突き付ける。テロリストが使っている武器兵器は先進国のメーカーが作ったものだという矛盾を、洗練された皮肉で告発するあたり、フランス人の小じゃれたエスプリを感じさせる作品だった。