こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

デイブレーカー

otello2010-09-30

デイブレーカー DAYBREAKERS

ポイント ★★★
監督 マイケル・スピエリッグ/ピーター・スピエリッグ
出演 イーサン・ホーク/ウィレム・デフォー/クローディア・カーヴァン/サム・ニール
ナンバー 216
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


永遠の若さと命を得たのに、与えられた時間をもてあましている。一応社会生活を送っているが、そこに達成感はなく、だれも笑顔を見せない。唯一の栄養源である人間の血を口にしたとき以外は・・・。バンパイアが地球を支配する近未来、人間は絶滅危惧種となり隠れて暮らしている。一方でバンパイアは食糧問題を解決するために模索する。不老不死の肉体を手に入れるために自らバンパイアになった人間も多くいるのに、今度は人間不足でバンパイアが絶滅の危機に瀕する皮肉。そのあたりの作り込みがスタイリッシュかつディテール豊かで、かつてないバンパイア映画として楽しめる。


製薬会社で代用血液の開発を担当しているエドは、オードリーという人間の女を助けたことから、バンパイアを人間に戻す研究に携わる。オードリーの仲間たちはバンパイアから人間に戻った男・ライオネルの指揮の下、人間の救出活動に励んでいた。


奪う側が少数派のうちは秩序が保てるが、多数派になってしまうと種族内での争いになっていく。この構図は、まるで発展途上国の安価な労働力の上に繁栄を築いている現代の先進国と、今後先進国になる発展途上国との間に起こりうる衝突を連想させる。収奪すべき対象が少なくなったとき、バンパイアは共食いを始めて“サブサイダー”と呼ばれる怪物になるが、人間ならば戦争を始めるだろう。ここで描かれるのはそういった「自分たちだけは助かりたい」という強烈なエゴ。バンパイアは人間から“進化”した種のはずなのに、決して心は成熟していない。そんな中でエドが見せる自己犠牲の精神だけが救いだった。


◆以下 結末に触れています◆


エドはライオネルとオードリーの協力で、バンパイアを人間に戻す方法を見つけ、製薬会社の社長のもとに乗り込む。重武装したバンパイアの警備兵が我先に人間を食らうシーンはまさに血の饗宴。さらに元バンパイアの人間たちに大勢のバンパイアたちが群がって、噛みつき、食いちぎり、滴る血を嘗めまわす場面は、食べることが生きることと同義であると思い出させ、その凄惨さは美しさすら伴っていた。生老病死の四苦のうち、老病死を克服できても残る生にいちばん苦しめられているバンパイアの哀れさを見るにつけ、限られた命で精いっぱい生きる人間でいる方がよいと思わせてくれる作品だった。