こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ネムリバ

otello2010-10-02

ネムリバ


ポイント ★★*
監督 園田新
出演 小野まりえ/三輪明日美/チャド・マレーン/加藤虎ノ介/鈴木砂羽
ナンバー 234
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


不満や不安、愚痴に自慢話。人は胸に詰まった澱をすべて吐き出してこそ安らかな眠りを得られる。枕を並べて添い寝してささくれた心を癒してくれる場所、そこに迷いこんだ娘もまた、国際結婚の両親から生まれた己は何者なのかという疑問と、家族を捨てて家を出た母親の真意を確かめたいという歪んだ感情に苦しんでいる。映画は、米国から来たヒロインがさまざまなカルチャーギャップを乗り越えて新しい人間関係と他人への思いやりを身につけるまでを描く。彼女の成長を見守る人々とカメラの視線がとても優しい。


東京に住む母を訪ねて米国から単身来日したミカは、間違って埼玉の小さな町に来てしまう。「ネムリバ」という看板の下で疲れ果てて眠っていると店長に声をかけられ、しばらくそこで世話になる。その店はスタッフが客に添い寝して安眠をもたらす施設だった。


ミカは自分のことで頭がいっぱい。それでも、それぞれ事情を抱える従業員や客と接するうちに人の話を聞き、人を慮る術を学んでいく。その過程で、白人の外見なのに“心は日本人”の男や海外派兵での死の恐怖におびえる自衛隊員、試合のプレッシャーに押しつぶされそうなJリーガーなど、立派な大人でも心のモヤモヤに睡眠を妨げられ、添い寝がそれを取り除くのを発見していく。誰かの役に立つ、ミカにとっては初めての経験だったのだろう、感謝されることでミカが嫌悪感を抱いていた「添い寝」に理解を示していく様子は氷が解けるような温かさをもたらしてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


特に人気スタッフの陽子と彼女の娘の葛藤を知り、常連客のじいさんが語る娘との思い出話に耳を傾けているうちに、今まで気付かなかった「親の子に対する思い」がどれほど深いものかを思い知る。それは子供を大切にしない親などいないという真実。きっと母も本当は愛してくれていた、だからこそ手紙を寄こしたとミカは思い至るのだ。そのあたり、エピソードの重ね方が洗練されている上、若い俳優の演技が大袈裟な割に加藤虎ノ介鈴木砂羽といったベテランが場を引き締め、最後まで楽しめた。