こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大奥

otello2010-10-05

大奥


ポイント ★★
監督 金子文紀
出演 二宮和也/柴咲コウ/堀北真希/大倉忠義/中村蒼/玉木宏/倍賞美津子
ナンバー 236
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


政治も経済も女に任せ、男はただ繁殖のみに必要な存在にしてしまえば少しは住みやすい世の中になるのではないだろうか。ますます広がる社会の格差、出口の見えない不景気、それは強欲という男の愚かさがもたらしたもの、ならばいっそ男を二級市民してしまえというのがこの作品の発想。はたして女が支配する江戸の町は活気にあふれ一見平和に見える。そこでは今まで養ってもらう立場を選択できた女はみな働かねばならず、逆に健康な男ならプライド捨てれば楽な一生を送れるある種の天国。それでも、観客は男女どちらであってもこんな堅苦しい生き方はしたくないはず。コメディにすれば楽しめたと思うが、なまじ「男女逆転」と大上段に構えてはとっつきにくい。


江戸時代、疫病で男の人口は激減、将軍をはじめ女がまつりごとをつかさどり、男は子種を提供するだけの地位になっていた。貧乏旗本の長男・佑之進は家計を助けようと幼なじみのお信への未練を断って大奥に出仕する。そこは大勢の美男が女将軍に仕える伏魔殿だった。


人足や駕籠かき、職人や商人まで労働力はすべて女。逆に男は侍であっても花魁や男娼と同じく「商品化された性」でしかない。働く女はみな生き生きとしている一方、佑之進以外の男はまったく元気がない、まさに肉食女子・草食男子の世界。江戸の町を活写したプロローグは時代劇で見慣れた以上の非常にディテール豊かな光景で、しかも男女の役割が正反対になっていることへの違和感がこの物語の不思議な価値観にいざなってくれる。ところが、慣れてしまうと「だから何?」という疑問ばかりが浮かんでくる。


◆以下 結末に触れています◆


水野と名乗るようになった佑之進は望み通り出世を果たし、新将軍の相手に選ばれる。しかし、処女である将軍の最初の相手は死刑になる運命、そこで佑之進の中で葛藤がありひと波乱あるのかと思いきや、彼はあっさり任務を引き受け命を差しだしてしまう。その後のオチも予想通りで、結局、ジェンダーを強調する古臭さが目立つ映画となってしまった。