こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

怪盗グルーの月泥棒 3D 

otello2010-10-07

怪盗グルーの月泥棒 3D Despicable Me

ポイント ★★*
監督 ピエール・コフィン/クリス・ルノー
出演
ナンバー 233
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛することを知らずに生きてきた大泥棒と、親の愛を知らずに育った幼い三姉妹。お互いに他者に対する警戒心が強く距離を置いていたが、いつしか相手にいてほしいと願うようになっていく。それは泥棒にとって、自分のためではなく自分を頼ってくれる者のために働く喜び。子供たちには、自分たちを心配してくれる大人がいる安心。映画は、主人公が満月を盗むという壮大なプロジェクトを進めていく過程で三姉妹の協力を得て、かけがえのない絆を築いていく姿を描く。どんな心の壁も無邪気に乗り越えていく末妹がキュートだ。


世界一の泥棒を自任するグルーは、月を盗む計画を立てる。それには物体を小さくする「縮ませ銃」を使わなければならない。グルーはライバルのベクターから「縮ませ銃」を奪うためにクッキー売りの三姉妹を孤児院から引き取る。


太った上半身に細い脚、尖った鼻とハゲ頭はいかにも悪党という風情。そんなグルーには思いやりなど微塵もなく、意地悪な上に他人を利用しようとしか考えない。一方の三姉妹にも、孤児院の厳しい暮らしに比べれば、里親になってくれたグルーは少々性格が歪んでいてもベッドと食事を提供してくれるだけマシ。最初はそういう利害の一致で結ばれていたのに、甘え上手の末妹・アグネスが徐々にグルーの琴線をとらえていく様子がおかしくも温かい。長姉・次姉もグルーの心根に触れるにつれ偏見が消えていく。融資を断られ夢を諦めようとするグルーにアグネスが貯金箱を差しだす場面は、愛と信頼が彼らの間に生まれる最高の瞬間だ。


◆以下 結末に触れています◆


人物の造形はあくまでアニメっぽいのに、宇宙船をはじめとするメカや、ドア・パソコン・テレビといった家屋の中、そして宇宙空間から見た地球といったディテールの質感は非常にリアル。月を盗みに行くロケットの針のような先端部分は、3Dの画面から飛び出して迫力満点。人生に必要なものは泥棒としての名誉や富などではなく、大切な人と過ごす時間であると思い出させるダンスシーンもノリノリで楽しかった。