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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヤコブへの手紙

otello2010-10-18

ヤコブへの手紙 POSTIA PAPPI JAAKOBILLE

ポイント ★★★
監督 クラウス・ハロ
出演 カーリナ・ハザード/ヘイッキ・ノウシアイネン/ユッカ・ケイノネン
ナンバー 239
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


喜怒哀楽をみせず、不機嫌な面持ちを崩さない女。不幸な生い立ちと長期の服役が彼女から表情を奪い、心を閉ざして刺激や変化に対応してきたのだろう。もはや希望や目標などない、ただ空気のようになって静かに世界からフェイドアウトしたいと考えている。それは贖罪というよりも生まれてきたことへの後悔なのか。そんなヒロインが、自分を心配いる他人がいるのに気付き、まだ愛されていると知って再び人生に踏み出していく姿が美しい。


恩赦で釈放されたレイラはヤコブという盲目の牧師の元に身を寄せる。そこでの仕事はヤコブ宛ての手紙を代読し、ヤコブが指示した返事の代書。しかし、レイラは届けられた手紙を汚水槽に放り込んでしまう。


ヤコブは字も読めず勿論書けないが、悩みを打ち明け救いを求める人々からの手紙に返事を送り、彼らのために祈ってやる。人は誰かに必要とされているからこそ生きる価値を見つけられる。突然手紙が来なくなったヤコブの落胆は高齢の彼にとって死刑宣告に近いモノに違いない。だが、手紙はなぜ急に途絶えたのか。レイラが捨てたからか、それともそもそも手紙はヤコブを失望させないために郵便配達夫がヤコブ宅から盗んで再配達していたのか。どちらの可能性もありそうでなさそう、そのあたりのあいまいさが深い味わいを残す。


◆以下 結末に触れています◆


やがて婚礼に呼ばれたヤコブに付き添って教会に行ったレイラは、誰もいない教会にヤコブを置き去りにする。漏水に濡れるキリスト像はまるで涙を流しているよう。そこではヤコブは確かに神の気配を感じているのだが、レイラにはもちろんその感触はない。それでもヤコブの人柄に触れ、配達されない手紙の代わりに身の上話をするレイラの目からは涙がこぼれている。レイラは過去にきっと神を恨み、存在を否定しているはず。胸に封印した思いを打ち明けて感情を取り戻したレイラは、神を疑ってはいても人間の良心や善意に己をゆだねようという気になる。姉からの手紙を握りしめ、愛を信じる気持になったレイラに、魂が浄化されるようなすがすがしさを覚えた。