こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Ricky

otello2010-10-28

Ricky

ポイント ★★★
監督 フランソワ・オゾン
出演 アレンクサンドラ・ラミー/セルジ・ロペス/アルチュール・ペイレ
ナンバー 230
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


母子家庭の少女は、まだ世界の中心に母親がいるような年ごろで、お母さんを独り占めしたい。仕事と子育て、生活全般に疲れていても女の部分は捨てきれない母親は、娘を愛しているけれど時々投げやりになってしまう。そんな時、母に恋人ができ、少女は母から捨てられるのではという危機感を持つ。母の気持ちが自分以外に向いてしまう嫉妬と寂しさ、大人の男という異物が日常に闖入してきた違和感、さらに赤ちゃんが生まれて否応なしに「姉」の立場に追いやられ甘えられなくなった少女の複雑な心境の変化がとてもリアルだ。特に彼女が赤ちゃんへの虐待に向かうのではないかと思わせるシーンは息をのむほど緊迫する。


シングルマザーのカティは小学生の娘・リザと2人暮らし。ある日、勤務先の工場で出会ったパコと恋に落ち、同棲、出産する。しかし、生まれた赤ちゃんの背中に痣がついていたといってパコをなじり、パコは姿を消す。


否応なくリザも赤ちゃんの世話を手伝うが、彼女は初めて愛されることだけでなく、愛することを学んでいく。しかも赤ちゃんの背中に翼が生え始め、外部に漏れては騒ぎになると考えたカティとともにその秘密を共有して、母親との関係も一歩進む。赤ちゃんを守るために母娘の絆が深まり、一方的だった愛の流れが循環するようになっていく過程はこの母娘に希望がもたらされるのを感じさせる。手羽先のような質感の赤ちゃんの翼に羽毛が生え、羽に生え換わっていく様子が非常に生々しいが、これは描かれているエピソードはフィクションでも登場人物の感情は本物だと訴えるオゾン監督のメッセージだ。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、「空飛ぶ赤ちゃん」は世間の知るところとなり、パコも戻ってくる。だが、マスコミにお披露目した途端、赤ちゃんは空の彼方に飛び去ってしまう。それは、カティもパコもリザも、もう同じ過ちを繰り返さないと確認したから。カティは新たな命を授かり、リザはパコという父親を得る。カティとリザの満ち足りた表情は、今度こそ完璧な家族を手に入れた安心感がもたらしているのだ。