こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

義兄弟

otello2010-11-01

義兄弟

ポイント ★★*
監督 チャン・フン
出演 ソン・ガンホ/カン・ドンウォン/チョン・グックァン
ナンバー 261
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


容赦なく引き金を引く北の殺し屋、タレコミを得て現場に急行する韓国の情報局員。息詰まる銃撃戦から群衆にまぎれての逃亡、原付バイクで幹線道路から隘路を経て高速道路へと逃げる容疑者を自動車で追跡する白熱のカーチェイスと、サービス満点のプロローグに思わず手に汗を握る。そして、祖国から見捨てられた者同士が育む友情はコミカルな中に人情とテンションを盛り込み、迫りくる未来の暗転を予測させる。映画は、融和と緊張を繰り返す国家間の政略のに翻弄されたふたりの男の運命を描く。家族への思いと潜伏生活の孤独、何より韓国社会の日常に溶け込んでいる工作員の存在がリアルだ。


“影”と呼ばれる暗殺者の所在をつかんだ国家情報員のハンギュは、脱北者が粛清されたマンションを包囲するが犯人を取り逃がす。6年後、人探し専門の探偵になったハンギュがベトナム人に襲われているところを青年に助けられる。彼は粛清現場から逃走したジウォンという北の工作員だった。


ジウォンは北からの援助を打ち切られ肉体労働を転々としていたところをハンギュにスカウトされ、仕事を手伝う。不法労働者の弱みに付け込み強引な手口を使うハンギュに対し、あくまでも理性的なジウォン。帰る場所がない者の気持ちがが理解できるからこそ彼らに優しくできるのだろう。ふたりはお互いの素性に気付きながらも、その人間性に触れていくうちにイデオロギーを超えた絆を結んでいく。敵であっても弱者の痛みが分かる男を警察に売れるかとハンギュはためらい、敵であっても自分に手を差しのべてくれた男を裏切れるのかとジウォンは悩む。だが、ふたりが抱える煩悶や葛藤が感情表現に長けた韓国映画らしからぬほど淡白で、喜怒哀楽のうち「喜」と「楽」たっぷりなのに「怒」と「哀」に乏しいちぐはぐな印象を受けた。


◆以下 結末に触れています◆


やがて南北間の対立が高まると“影”の暗躍が再開、情報部に正体を見破られたジウォンは追われる身となる。その過程で“影”と接触し、追い詰められた中で最後の決着を付ける。祖国への忠誠、ハンギュへの恩義、そのあたりをうまくまとめたラストはウイットが効いていて思わず口元がゆるむ。ただ、少し甘過ぎるとは思うが。。。