こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マザーウォーター

otello2010-11-03

マザーウォーター


ポイント ★*
監督 松本佳奈
出演 小林聡美/小泉今日子/加瀬亮/市川実日子/永山絢斗/光石研/もたいまさこ
ナンバー 229
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


神社の境内にあるわき水は、その地の住人の飲用水になっている。住宅街にはきれいな疏水が走り川べりは老若男女が散策する。そんな“おいしい水”に恵まれた町で、豆腐屋、コーヒー専門店、水割りだけのバーという水質が商品の味に影響する商売を営む3人の女と、彼女たちを取り巻く近所の人々の静かな日常。そこでは小さな発見はあっても大きな出来事は起こらず、人生について真剣に語るよりも他愛のない世間話を繰り返す。映画は穏やかに流れる時間の中で暮らす彼らを描くことで見る者に豊かな心を届けようと試みるが、ただただ変化の乏しい映像は居心地の悪さしか感じなかった。


豆腐屋のハツミ、バーのセツコ、カフェのタカコはそれぞれ1人で店を開いている。顔なじみになるうちに家具職人のヤマノハ、風呂屋のオトメ、独居老人のマコトといった近所の常連とも交流が生まれ、徒然に日々が過ぎていく。


相手を気にかけてはいるが、必要以上に踏み込まない。その距離感が人間関係を良好に保つ秘訣なのだろう。だからこそ彼らの会話は毒にも薬にもならない話題と内容に終始する。しかし、そのダイアローグは数十秒、時には1分を超えるような長いワンカットで延々と撮影するため視覚的には物足りない。緩急取り混ぜていればよいのだが、緩〜いシーンばかりでは退屈以外何も覚えず、ため息ばかりが漏れてしまう。


◆以下 結末に触れています◆


結局この映画は散文的なシーンの連続でしかなく、シーンの積み重ねがエピソードとなり、エピソードのつながりがストーリーになるような、“物語”としての初歩的な機能が決定的に欠け、不出来な環境映像のようでしかない。「今日も機嫌よくやんなさいよ」というマコトの言葉とは裏腹に、機嫌が曲がってしまう作品だった。