こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハーモニー

otello2010-11-06

ハーモニー


ポイント ★★★*
監督 カン・デギュ
出演 キム・ユンジン/ナ・ムニ/カン・イェウォン/チョン・スヨン
ナンバー 259
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


1歳の赤ちゃんの誕生日を祝う女たちのテンションは不自然なほど高い。変化に乏しい毎日の中で精いっぱい楽しむことで虚勢を張っているようにもみえる。いや、それ以上に心の奥底に絶望や孤独、後悔といった苦悩を抱えているからだろう。己の弱さを他者に見せたくないゆえにカラ元気を出す、そんな彼女たちの心理が胸を締め付ける。映画は、女子刑務所を舞台に、希望を取り戻そうとする女囚たちの姿を描く。それぞれが背負った人生の重荷を仲間と分かち合い、なんとか家族と連絡をつけたいと願う気持ちが切ない。


夫殺しで服役したジョンヘは獄中で出産、同房の女囚と共に赤ちゃんを育てている。母子が一緒に暮らせるのは18ヶ月間、ジョンヘは別れの日に外出許可をもらうために刑務所内で合唱団を作り、活動を軌道に乗せようと奮闘する。


ジョンヘがメンバーを募り、元音大の先生が指揮をとり、看守がピアノを弾く。囚人たちは人を殺した者がほとんどだが、その陰にはDV、不倫、事故といった原因があり、必ずしも彼女たちが凶悪なわけではない。合唱のまとまりを取るために各人に犯した罪を告白させるシーンは、人間の業の深さとともに愛の重さを感じさせる。誰かに必要とされていたい、だが人を殺した自分にその資格はない。自責の念に苛まれながらも家族の赦しをずっと待ち続ける年老いた先生や、年老いた母の面会を拒み続ける若い女、そして赤ちゃんと引き離されるジョンヘなど、愛する者と会えない苦痛こそが刑務所に隔離する最大の罰であることをうかがわせる。


◆以下 結末に触れています◆


やがて合唱団も定着し、外部でのコンサートに招待されるまでになる。そこでまたひと悶着起こった後、映画は最後に死刑制度の在り方を問う。怒りや憎しみといった感情から解き放たれ、澄み渡った心になったところで刑が執行される。安らかになり、もはや他人を傷つける心配などない人間の命を奪う意味がどこにあるのか。そんな疑問を投げかけるラストが、ありふれた更生物語にひねりを利かせていた。