こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エリックを探して

otello2010-11-30

エリックを探して LOOKING FOR ERIC

ポイント ★★★
監督 ケン・ローチ
出演 スティーヴ・エヴェッツ/エリック・カントナ/ジョン・ヘンショウ/ステファニー・ビショップ
ナンバー 281
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一歩踏み出す勇気を持ちチャンスをものにする。仲間の力を借りてピンチをしのぐ。人生とはまさにサッカーそのもの。「すべては美しいパスから始まる」という言葉に象徴されるように、人間同士のつながりも、誰かを信じれば自分も頼られる、そして他人のために行動を起こせば結局は己のためにもなる。先妻に未練を残し、息子たちの前でも威厳を示せない、そんな、トラブルを見て見ぬふりをして過ごしてきた主人公が、憧れのスターの登場でもう一度自らの足で歩きだそうとする様子をカメラは丹念に追う。いつもながらのケン・ローチ流のそっけない演出だが、珍しくコミカルな空気が漂っている。


冴えない郵便配達夫・エリックは思い通りにならない日常にウンザリしている。ある日、彼の前にサッカー選手のカントナが現れる。カントナは、過去を見つめ直して現在と向き合い、運命を切り開いていくものだとエリックに語る。


もちろんカントナは、友人が勧める自己啓発法でエリックが作り上げた幻影だが、芸術的なサッカースタイルとは裏腹に問題ある言動で波乱の現役時代を過ごした彼ならではの味わい深い「格言」の数々が披露される。特に、耐えられないときには思い切り「NON!」と声を上げる大切さを教えるシーンは、エリックがいかに多くのことをチャレンジもせずに諦めていたかを物語る。自己主張が強すぎるがゆえに常にギリギリのところでを突っ走ってきたカントナの生き方を見て、エリックは別れた妻・リリーに胸の内を伝え、体を張って息子を守ってやる気持ちを取り戻そうとする。


◆以下 結末に触れています◆


これまでのローチ作品ならば切なさがにじみ出るような終わり方で希望のない現代に生きる厳しさを訴えるのに、ここではカントナの不屈の精神を通じて見事にエリックを立ち直らせる。尊敬している人に見られているところを想像する、それだけでこれほどまでに前向きになれるのだ。リリーと縒りを戻し息子たちの信頼も勝ち取る過程を通じ、映画は家族の結びつきとそれ以上に同じ職場で働く労働者の友情の固さを描き、人間はもっと自分の中の可能性を見つけ出す努力をすべきだと訴えるとともに、他人に依存してもかまわないと教えてくれる。