こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きみがくれた未来

otello2010-12-01

きみがくれた未来 Charlie St. Cloud

ポイント ★★*
監督 バー・スティアーズ
出演 ザック・エフロン/アマンダ・クルー/キム・ベイシンガー/レイ・リオッタ/チャーリー・ターハン
ナンバー 221
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


兄弟同時に事故に遭ったのに弟ひとりが息絶える。なぜ自分が生き残ってしまったのかという疑問と、弟を救ってやれなかった後悔、そして幼い彼の将来を奪った事実が強烈な罪の意識を兄に植え付ける。そんな主人公の、弟との約束を守り続けることで現実から逃避する姿が悲しみの深さを物語る。本当に弟の魂と対峙しているのか、幻覚を見ているのか、確実なのは死者との会話は兄にとってはまぎれもなくリアルな実感を伴った体験。映画は、弟に先立たれた男が、その死を乗り越え新しい一歩を踏み出すまでの苦悩と葛藤を描く。


チャーリーはローカルのヨットレースで優勝するほどの腕の持ち主。高校卒業式の夜、パーティに向かう途中トラックに追突され、同乗していた弟のサムが死亡する。以後5年、チャーリーは大学進学を諦め、墓地管理人として世捨て人のように暮らしていた。


墓地の裏の森でサムとキャッチボールをするのがチャーリーの日課。それはサムの死を受け入れられないチャーリーが作り上げた妄想なのだろう。野球がうまくなりたいと言っていたサムの夢を叶えてやれなかった兄の責任感ゆえ、チャーリーは己の未来を捨てずっとサムのそばにいる道を選ぶ。心を閉ざし、人付き合いもほとんどせず静かに暮らすチャーリーは、サムといるときだけは思いっきりはしゃぎ笑顔を見せる。また戦死した高校時代の友人とも言葉を交わす。いまだ地上に未練を残す霊が見えるチャーリーは半分死んでいるも同然。だからこそ、救命士がチャーリーに生き返った意味を考えさせようとするのだ。


◆以下 結末に触れています◆


人は生きているのではなく生かされている。では、何のために生かされているのか。ヨットで遭難したテスという女性を救出するために、チャーリーはやっとサムへの思いをふっ切って海に出る。瀕死のテスを自らの体温で介抱し救助を待つチャーリー。人は誰かのために生かされているのではなく、自分の人生を自分の意志できちんと歩むために生かされている。そう思わせるラストシーンは希望をはらみ命の瑞々しさに満ち溢れていた。