こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マクナイーマ 

otello2010-12-03

マクナイーマ MACUNAIMA


ポイント ★★
監督 ジョアキン・ペドロ・デ・アンドラーデ
出演 グランデ・オテロ/パウロ・ジョゼ/ディナ・スファト/ミルトン・ゴンサルヴェス
ナンバー 272
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


あまりにも不条理で恐ろしいまでにナンセンス。まるで夢を見ているかのような脈絡のないエピソードの連続に思考は追いつかず、しかし悪夢の不快さはない。ばかばかしさにあきれながらも、予想を裏切り続ける展開に期待したりもする。妄想の暴走はブレーキが効かず、どこへ向かうのかまったく予断を許さない。そして何らかの解釈を加えようとする見る者の能動的な姿勢を寄せ付けず、ただただ思いつきを羅列した映像を見せつける。おそらく“時代の空気”を濃厚に反映しているのだろうが、映画が製作された1969年当時の記憶がない者には楽しめない。


ジャングルの奥地で中年の黒人男の姿で生まれたマクナイーマは、泉の水を浴びると白人の好青年に変身する。二人の兄とともに大都会に出たマクナイーマは女ゲリラと恋に落ちる。


ここにはブラジルの雑多なパワーがあふれている。金持ちと貧乏人、未開人と文明人、さらにあらゆる人種が入り混じっている。その中で白人優位は絶対的。「白人が走っていればアスリートだが、黒人が走っていれば泥棒」とか「女の子の毛が縮れているところはアフリカ」といったジョークに人種ネタが使われる。黒い肌のマクナイーマが「英雄」の道を歩み始めるのもやはり白人になったから。それでも米国ほど有色人種が露骨な差別を受けているわけではないあたりが、後のこの国の発展の可能性を感じさせる。


◆以下 結末に触れています◆


笑いも癒しも感動ももたらさず、見る者の価値観に「?」を突き付けるこの作品からなんらかの意味が隠されているのなら、「人生何が起きるかわからない」という教訓。もはや何も考えずシートに身を沈めスクリーンに意識を同調させるのみ。そうやって「マクナイーマ」を鑑賞するのは、“無駄を楽しみ無意味を味わう”という最高の贅沢なのかもしれない。。。