こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

otello2010-12-06

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

ポイント ★★*
監督 東陽一
出演 浅野忠信/永作博美/市川実日子/利重剛/藤岡洋介/森くれあ
ナンバー 289
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ヘタをすれば命を落とすかもしれないのに誰にも同情されない病気、アルコール依存症になった男の入院生活は、不満は食事のメニューだけの居心地の良さ。見舞いに来てくれる家族にも恵まれ、他の入院患者や、医師・病院スタッフとの関係もおおむね悪くない。カメラはそんな主人公のぬる〜い日常を克明に追う。有り余る時間の中で人生を振り返るわけでもなく、反省して別れた妻に頭を下げるわけでもない。映画はことさら感情を強調せず、この男と家族の腐れ縁を描く。どうしようもない男でも好きになったことがあるから仕方がないと受け入れる妻の深い愛が印象深い。


飲酒で消化器系を患い大量に吐血して救急搬送された塚原は、退院後も酒を飲みまた倒れる。母親と、離婚した妻・由紀は塚原を精神病院に入所させ、徹底的に治療に専念させる。精密検査の結果、塚原の体は病巣だらけ、脳に委縮も見られた。


二度目の入院から家に戻った時、身構えている塚原が母にも由紀にも説教されず拍子抜けするシーンがあるが、何故彼女たちはこれほどまでに塚原を心配できるのか。優しくするから甘えてしまい、許してもられるから懲りずに飲む。自分の弱さをとことんまでにさらけ出す塚原のような男を、母性本能の強い女は放っておけないのだろう。それ以上に塚原の持つもろさと危うさを浅野忠信は見事に表現していた。


◆以下 結末に触れています◆


塚原はアルコール依存症をある程度克服するが、腎臓がんが進行していて余命幾許もないことが判明、帰宅を許可される。その状態を由紀は「悲しいのかうれしいのかわからない」と表現する。それは「家に帰ってきてくれたのはうれしいが、すぐ死んでしまうのは悲しい」という当たり前の反応以外にも、「こんな男と縁が切れて清々する反面、父親を亡くす子供たちの気持ちを考えると不憫」という思いがあったはず。そのあたりの簡単には割り切れない彼女の胸の内が繊細なバランスとなって、この作品を引きしめていた。