こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シチリア!シチリア!

otello2010-12-17

シチリア!シチリア! BAARIA

ポイント ★★*
監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
出演 フランチェスコ・シャンナ/マルガレット・マデ/ニコール・グリマウド/アンヘラ・モリーナ/モニカ・ベルッチ/リナ・サストリ
ナンバー 276
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


時は流れ住む人は入れ替わっても、街は存在し続ける。喜びも悲しみも愛も憎しみも過ぎ去ってしまえば一瞬の出来事のように思える。まさに邯鄲の夢、それでも誰かを愛し誰かに愛された記憶は人にとって大切な宝物なのだ。映画はシチリアの小さな町に生まれ育ち、生活し、そして死んでいったひとりの男の一生を通じ、人生の豊饒とは何かを描く。いや、むしろこの壮大な叙事詩は、豊かな歴史を持つ石造りの“町”こそが主人公。そこで生きた人々を通して、人間らしい暮らしのある町のあり方を問うているかのようだ。


バーリアというシチリアの小さな村、牛追い家庭の子・ペッピーノは、成長して共産党員になる。ある夜、ダンスパーティで知り合ったマンニーナに一目ぼれ、婚約者から彼女を奪って結婚し、何人もの子をもうける。一方で農民解放運動に忙殺されていく。


ムソリーニ政権下で明らかにファシストに嫌悪感を示す住人達は、コミュニストに対しては寛容。長きにわたって小作人たちが搾取されてきた過去を物語る。また5人家族が買収され、それぞれが別の政党立候補者に投票するシーンなど見ていると、元々この土地の人々には政治的な関心は希薄なのだろう。ただ、家族が仲良く食卓を囲めるだけの収入を保証してくれれば思想などどうでもよいのだ。それはペッピーノがバーリア共産党のリーダー的な役割を果たしているにもかかわらず、家庭には一切仕事を持ちこまないことからも明白。結局、糊口を満たしてくれる政治家がいい政治家というわかりやすさ、しかしそれが人間の根源的な欲求なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


時代は更に60年代、70年代と下る。その間の移ろいは街角の映画ポスターやラジオの流行歌から推測するしかないが、おおむねペッピーノと家族は大過なく過ごす。このあたり、展開に感情のヤマが乏しくエピソードの羅列に陥ってしまいやや冗長。たとえば駆け落ちまでして一緒になったマンニーナとの恋や、戦後農民を指揮して地主と闘う姿など、いくらでもペッピーノの身辺を劇的にできたはず。あえて拒んだのはやはり物言わぬバーリアの街が物語の中心だからなのか。。。