こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トロン LEGACY

otello2010-12-20

トロン LEGACY TRON LEGACY


ポイント ★★*
監督 ジョセフ・コジンスキー
出演 ギャレット・ヘドランド/ジェフ・ブリッジス/オリヴィア・ワイルド
ナンバー 300
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


蛍光ラインに縁取られたスーツに身を包んだ戦士が発光ディスクを投げ合い、光跡を残すバイクが立体的なフィールドで騎乗戦を繰り広げる。その圧倒的な迫力とスピード感は、まさに近未来の体験型ゲーム。致命傷を負ったファイターがモザイクのように崩れ落ち消滅するシーンが命のデジタル化を象徴する。映画は、CGを使っていかにリアリティを生みだすのかではなく、いかに最先端のサイバーワールドに見えるかを極めようとする逆説的な創作法で、無機質だがエッジのきいた映像をデザインする。そこでは「プログラム」もまたアイデンティティや感情を持ち、より人に近付いた存在。コンピューターの進化とは、結局人間らしさを追求することなのか。


巨大IT産業の創業者・ケヴィンが1人息子のサムを残して突然姿を消す。20年後メッセージを受け取ったサムは秘密の研究室を発見、気がつくとケヴィンが開発したコンピューターシステムの中に取り込まれていた。そこは若き日のケヴィンそっくりの支配者・クルーが権力を握り、サムはサバイバルバトルの場に引き出される。


そもそもケヴィンはこの世界で何を構築したかったのだろう。仮想空間に理想の社会をつくり、人間界にフィードバックするつもりが、暴走したプログラムにのみ込まれてしまう。しかもある種のパラレルワールドとなったそこは、独裁国家さながら自由が規制されている。人の心をプログラムすると、電脳内社会でも民主主義を実現させるまでには、専制政治を経験させなければならないというのは、歴史から学んだ痛烈な皮肉だ。それにしても、記憶同様の“ディスク”を武器代わりに投げる粗っぽい扱い方は、失くしたり奪われたりした時のリスクが大きすぎると思うが。。。


◆以下 結末に触れています◆


その後、サムはずっとデジタル化されていたはずなのになぜか老けてしまったケヴィンと再会、人間界に戻る方策を練る。その場面で、ケヴィンの書架が映されるが、並んだ本はロシア文学や東洋の古典といった人生を意義を問うものばかり。何よりシステム内のデジタル人格が“電子書籍”ではなく“紙に印刷された本”を読んでいるのは最高に笑えるジョークだった。