こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

完全なる報復

otello2010-12-21

完全なる報復 LAW ABIDING CITIZEN

ポイント ★★★
監督 F・ゲイリー・グレイ
出演 ジェラルド・バトラー/ジェイミー・フォックス/レスリー・ビブ/ブルース・マッギル/コルム・ミーニイ
ナンバー 297
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男の怒りと憎悪は時と共に熟成されより大きなエネルギーになっていく。それは妻子の仇打ちなどという限定的なものではなく、犯人をかばったすべての司法関係者に向けられた残虐な刃。莫大な資金と計算された謀略、大胆で緻密な行動力は、洗練された暴力として標的になった人間の命をもてあそぶ。映画は、主人公の力を借りて、“司法取引”という悪党に優しい法制度と、それを利用して高い有罪率を維持しようとする検察システムに斬り込んでいく。法を守るのが正義なのにその建前に守られた「悪」がいる、彼はこの歪んだ矛盾に対して悪魔のような自らの「正義」を貫いていく。


妻子を目の前で惨殺されたクライドは、容疑者の軽い刑に憤怒を隠しきれない。10年後、クライドは釈放された容疑者を拉致し切り刻んで逮捕されるが、拘置所で妻子殺しの担当検察官だったニックに取引を持ちかける。


クライドは刑務所内にいるのに、彼の予告通り次々と関係者が殺されていく。その手口は鮮やかで無駄がなく、クライドがどのような日々を過ごしていたかを想像させる。いや、むしろ若いころから破壊工作のスペシャリストなのだろう。ニックや他の司法関係者の思考を読み先手を打つ手際の良さ、明らかにクライドの仕業なのに協力者の影さえ見えない謎。そしてニックを交渉窓口に選び意のままに操っていくクライドの知略が物語の緊迫感を高めていく。


◆以下 結末に触れています◆


ニックに「復讐しても死んだ妻子は喜ばない」と言われたときに、クライドは一瞬曇った表情を見せる。それはクライドのなかの人間的な心が、司法制度に対する挑戦を宣言する一方で自分の暴走を止めてほしがっている証拠。ニックが刑務所脇の隠れ家とトンネルを発見し、また市庁舎に仕掛けた爆弾を見つけるのも、すべてクライドの想定内だったはず。恨みを晴らした後に残るのは圧倒的な孤独と絶望、そうなるのが分かっているからこそ、ニックの罠に落ちたのだ。どこまでも悲しいクライドの生きざまは家族への愛の裏返し、妻子が無事でいることの幸せをニックがかみしめるラストシーンはクライドの理想だったに違いない。