こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キック・アス

otello2011-01-04

キック・アス KICK-ASS


ポイント ★★★★
監督 マシュー・ヴォーン
出演 アーロン・ジョンソン/クリストファー・ミンツ=プラッセ/マーク・ストロング/クロエ・モレッツ/ニコラス・ケイジ
ナンバー 1
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


いくら痛めつけられてもじっと耐えなければならない。殺されそうになっても助けを呼んだり命乞いはできない。彼らに求められるのは肉体的なポテンシャルだけでなく、どんな時も絶対にあきらめない不屈の意思。少年時代、誰もがスーパーヒーローになりたいと空想を膨らませるのに決して実行に移さないのは、無償の人助けは割に合わないと知っているから。それでも主人公はコスチュームを手に入れ、ヒーローを目指す。物語は、冴えない高校生が日常から逃避するうちに期せずして話題の人物になり、本物のスーパーヒーローと行動を共にする過程で人生の厳しさを学んでいく彼の成長を描く。真剣だが間抜け、不器用だがちょっと計算高い彼の濃やかな心理描写が、心をくすぐり共感を呼ぶ。


ネット通販でコスチュームを手に入れたデイブは、早速車泥棒を退治しようとするが、逆に刺された上に交通事故にあう。おかげで金属の骨格と無痛覚の体を手に入れ、街でチンピラ同士の喧嘩を仲裁、その一部始終がネットに流れ“キックアス”として一躍ヒーローになる。


この、何の特技もなく腕っ節が強くもないのに「見て見ぬふりはできない」彼の正義感が市民の関心を集める。へっぴり腰なのに身の危険を顧みない、そんな無謀ともいえる自己犠牲の精神こそが現代社会に欠けていると命がけで叫び、目の前で起きている不正や悪事に敢然と立ち向かう姿が人々に勇気を与えるのだ。映画は、1人1人が行動に踏み出す勇気を持てば世界はもっと素晴らしいものになると訴えるが、そこをコミカルに処理して説教臭さを抑えた映像は非常に小気味よい。


◆以下 結末に触れています◆


だが、小さな悪を正せても大きな悪を倒すには力が必要であることをデイブは実感する。強力な動機と不断の鍛錬があって初めてパワーが手に入るのだ。デイブはそれをヒットガールというあどけない少女から教えられるが、同時に彼女の圧倒的な強さとチャーミングな表情で観客のヒーロー願望をキッチリ叶えハートをガッチリとらえる。うだつが上がらないリアルさと痛快無比なファンタジーが見事に融合した作品だった。