こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファンタスティックMR. FOX

otello2011-01-07

ファンタスティックMR. FOX FANTASTIC MR.FOX


ポイント ★★*
監督 ウェス・アンダーソン
出演 ジョージ・クルーニー/メリル・ストリープ/ジェイソン・シュワルツマン/ビル・マーレイ/オーウェン・ウィルソン
ナンバー 299
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


型にはまった日常よりも、思いのままに生きる方が人生は有意義。でも、そんな振る舞いは何かを犠牲にしないと成り立たないし、スリルは味わえても他人に迷惑をかけるから、おとなしく暮らしていたほうがいいよという教訓にも感じられる。主人公のキツネはきちんとネクタイを締めキメ台詞を吐く気障な男。彼が家畜を盗んで妻にとがめられると、それが“野生”だとわけのわからない言い訳をするアホらしさに笑える。強欲な資本家なら財産を奪ってもかまわないという矛盾を抱えながらも、表情豊かな動物の人形が演じるキャラクターは非常に人間臭くて憎めない。


MR.FOXは妻の妊娠を知って泥棒家業から足を洗い、新聞記者をしながらの穴倉住まい。ある日、丘の上の大きな家に引っ越したのを機に泥棒を再開、意地の悪い3人の農園主から食料を盗んで怒りを買う。


農園主たちは徹底的にMR.FOXを追い詰め、彼の家族だけでなく他の動物たちの生活まで破壊する。その過程で、できの悪い息子よりも優秀な甥を可愛がったりして親子間の感情がこじれたりする。映画は思春期の子供たちの繊細な気持ちまで丁寧にすくい取り、見る者に豊かなイマジネーションを与えてくれる。一方で、どんな時もクールなMR.FOXは頼れる父親であると同時に動物たちのリーダーでもあるが、大変なトラブルメーカーでもある。彼をヒーローに見せかけた短慮な男として描いているが、それでも家族への責任は全うさせているところに好感が持てる。


◆以下 結末に触れています◆


結局、動物たちは何とか3人の農園主から逃れるが、途中1匹の黒いオオカミを見かける。オオカミは森に帰るがMR.FOXたちの行先はなんとスーパーの食料品売り場。やっぱり、文明にどっぷりと浸かっているいるような輩がいくら「野生の本能」などと口にしても、体一つで自然の中に戻る勇気はない。MR.FOXは、設備の整ったキャンプ場でバーベキューをするのが「ワイルドライフ」と思っている類の都会のオッサンたちに対する強烈な皮肉なのだ。