こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンストッパブル

otello2011-01-10

アンストッパブル UNSTOPPABLE


ポイント ★★★
監督 トニー・スコット
出演 デンゼル・ワシントン/クリス・パイン/ロザリオ・ドーソン
ナンバー 6
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


輸送車や脱線器といった行く手を阻む障害物をぶち壊し、着地しようとする海兵隊員を跳ね返す。猛スピードの機関車は怒り狂うモンスターのごとく人間の挑戦を蹴散らして破滅に向かって突進する。正面、側面、上空、切り返しと、アングルを変えたカメラワークと短いカットの連続は、暴走する列車のさまざまな表情をとらえる。それはこの列車に意思があるかのように思わせるとともに、事件にかかわる人々の気持ちを代弁している。驚く者、心配する者、慄く者、迷う者、そして闘う者。レールの上をばく進する列車の映像がこれほどまでに豊かで繊細な感情を表現できるものなのかと、改めてトニー・スコット監督のクリエイティビティに感服した。


作業員のミスで、機関車777号は毒物と可燃物の貨車をけん引したまま無人で走り出す。機関士のフランクは車掌のウィルとともに機関車1206号に線路を逆走させ、777号の最後部に連結してブレーキをかける。だが、777号は速度を増し、工業地帯の危険な急カーブに迫っていく。


777号対策よりも、事故後の株価の下落率ばかり気にする鉄道会社幹部。一方、フランクやウィル、運行部のコニーといった“現場の人間”は体を張って対処している。早期退職を言い渡されあと十数日で退職するフランクは、見て見ぬふりをしてもおかしくない。しかし命がけで列車を止めようとする彼は、目の前の危機を傍観しているわけにはいかないという正義感に突き動かされているのだろう。映画は米国の底力を支えているのは高給を食むホワイトカラーではなく、危険と背中合わせの職場で働く労働者だと高らかに宣言し、彼らの勇気と行動力を賞賛する。


◆以下 結末に触れています◆


なんとか急カーブを脱線させずに乗り切った後は、ウィルが777号の運転席に飛び移ってブレーキをかける。なんかもうひとひねり、素人には想像もつかない秘策を使うのかと予想したが、実話をもとにしているだけに派手な誇張を避けたのか。あくまで普通の人々の力の範囲内で解決を図る姿勢はかえって心地よかった。