こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

婚前特急

otello2011-01-14

婚前特急


ポイント ★★★
監督 前田弘二
出演 吉高由里子/浜野謙太/杏/石橋杏奈/青木崇高/榎木孝明/加瀬亮
ナンバー 9
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


情熱的な恋でもなく、深く静かな愛でもない。ただ自らのスケジュールを満たすために5人の男と付き合っているヒロイン。彼らは彼女にとってボーイフレンドではなくセックス付きのアクセサリー。そんな女が“結婚”を真剣に考え始めた時、誰を選ぶのか? 美人を鼻にかけていつも高飛車で自己チュー、それは心から人を愛した経験がない寂しさの裏返しというひねくれたキャラクターを、吉高由里子がコミカルに演じてその毒気と嫌味を消している。彼女にとっての方向違いの運命の人探しは、結局自分探しでもあるのだ。


親友のデキ婚を機に交際中の5人の男の中からひとりを選ぶ決意をしたチエは、それぞれの長所と短所を書きだして査定していく。まず一番メリットの少ないタクミに別れを告げるが、逆にフラれた形となり、チエのプライドが傷つく。


風采が上がらずカネもないタクミは非常にズレた感覚の持ち主で、チエの攻撃をのらりくらりとかわす。彼の悪意のないボケぶりはさらにチエを苛立たせ、チエはタクミが自分を好きになるように仕向けた上で手酷く捨てる復讐計画を立てる。その過程で、タクミが恋心を抱いているミカを、チエは「ヤリマン」とけなすが、普通はチエのような女がヤリマンと呼ばれるはず。己のことを棚に上げて他人の悪口を言う彼女の精神構造が危うくも楽しめる。


◆以下 結末に触れています◆


一方のタクミもチエと肉体関係を続けながらも真実の愛を求めている。それはお嬢様育ちで優しいミカに向けられているが、彼の不器用だが一途な気持ちが通じてしまう。ところが、願いが成就したのに、満ち足りていること自体に物足りなさを覚える彼の複雑な感情が妙に共感できた。確かにミカは男から見ると素晴らしい女性に見えるが、理想的な彼女より欠点だらけでもツッコミを入れてくれるチエといる方が居心地かったりする。お互いに胸に秘めている思いを打ち明けてこそふたりの相性が分かる、夫婦となって一緒に暮らす上で幸せになる秘訣を話す老婆の言葉が印象的だった。