こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ランナウェイズ

otello2011-01-15

ランナウェイズ THE RUNAWAYS


ポイント ★★*
監督 フローリア・シジスモンディ
出演 クリステン・スチュワート/ダコタ・ファニング/マイケル・シャノン/ステラ・メイヴ/スカウト・テイラー=コンプトン/
ナンバー 10
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


反逆、そして挑発。ロックンロールがまだ男の聖域だった'75年、時代に敢然と牙を剥き立ち向かっていった少女たちは、「女のリビドー」を解放する歌で同性の圧倒的な支持を得る。それは自由に生きたい魂の叫び、男の楽しみを自分たちも享受したい欲望。しかしその虚像は、1人の男のプロデュースによって未熟な彼女たちが演じさせられていたに過ぎない。映画は初めてメジャーになったガールズバンドのあまりにも短い栄光と挫折を通じて、人生のはかなさを描く。彼女たちは一発屋に終わったけれど、下着姿でセクシーに腰を振るヴォーカルは女性ロッカーの方向性を決定づけ、後にマドンナが受け継いで開花させるのだ。


エレキギターを弾いているジョーンは、レコードプロデューサー・キムのアドバイスで女子バンドを結成、クラブでシェリーをスカウトしヴォーカルに加えてデビューを目指す。やがてファンの罵声を浴びながらドサ周りを続けるうちレコード会社との契約にこぎつける。


ビニール袋に貯めた小銭で革ジャンを買い、バイクを駆る代わりに歩道を走る。そんなジョーンのロックに対する思い入れがほほえましい。一方のシェリーは己がなりたいものが分からず、今の暮らしから逃げ出したいと考えている。スターになるのが夢だったジョーンと成り行きまかせのシェリーの関係は、その後も音楽に対する温度差となって彼女らの活動に現れる。家族が出てこないジョーンに対し、双子の姉とアル中の父という重荷を背負っているシェリー。ドラッグにまで手を出すシェリーの心の弱さがバンドを追い詰めていく。


◆以下 結末に触れています◆


だが、カメラは彼女たちの内面に対する踏み込みが今一歩甘く、そこからは成功の甘美な愉悦や裏切りのほろ苦い蹉跌が味わえない。実話に基づいているとはいえ、もう少し感情を強調する演出があってもよかったのではないだろうか。数年後、ラジオでジョーンの生出演を知ったシェリーが思わず番組あてに電話をかけるが、声を聞いた途端何も話すことがなくなってしまう。この唯一感傷的なシーンは、ふたりの運命に横たわる溝の深さを物語るとともに、二度と戻らない青春の日々への哀惜が凝縮されていた。