こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

僕と妻の1778の物語

otello2011-01-18

僕と妻の1778の物語

ポイント ★★
監督 星 護
出演 草なぎ剛/竹内結子/谷原章介/吉瀬美智子/大杉漣/風吹ジュン/陰山泰
ナンバー 13
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


四角いけれど角は丸い、そんなブリキのロボットが活躍する主人公のイマジネーションはどこか懐かしくて温かい。泉のごとく湧いて出る彼のアイデアからは次々と物語が紡ぎだされ、原稿を読む妻を癒していく。病に伏せる妻、彼女を見守る夫、彼らを見つめるカメラはリアリティ乏しく、それがかえって死の影を濃密にする。映画は、末期がんを宣告された妻のためにSF作家が1日1話の短編小説を書き続け彼女の臨終までを見届ける過程て、夫婦の愛を謳いあげる。


朔太郎と節子夫婦は小さな家に暮らす仲の良い夫婦。ある日、節子が大腸がんで余命1年と診断されるが、笑うと免疫力が上がると医師に告げられた朔太郎は彼女のために毎日笑える小説を書くと決心する。だが、最初の作品は「エッセイ」と一蹴される。


ふたりの日常は生活臭がほとんどなく、現実から5センチ浮いているよう。それは朔太郎のSF作家という職業的な視点で世界を見ているからなのだろう、その無機質な映像は“お涙ちょうだい”的な方向性を拒否する。特に節子のがんを知った朔太郎が動揺する場面は、一切の感情を表情から消すことで彼の放心状態を表現する。そのあたりの計算された抑え気味の演出と寒色系のトーンは非常にクールで、北海道旅行での雲ひとつない抜けるような青空でさえ深い悲しみを帯びている。それらが時折挿入される朔太郎の空想と好対照をなしているのに、一方でわざとらしいエピソードとエモーショナルな音楽がストーリーの流れをせき止める。


◆以下 結末に触れています◆


特に節子が最後に入院するあたりで顕著。なぜか掃除のじいさんが節子の部屋をのぞき見したり、患者や看護婦が朔太郎を遠巻きに眺めていたかと思うと、食べ物や飲み物を置いていったりする。「1日1話」は朔太郎と節子のごく私的な物語なのに、無関係な他人を中途半端な距離で絡めてしまったためいたずらに上映時間が長くなってしまった。