こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒア アフター

otello2011-01-22

ヒア アフター HEREAFTER


ポイント ★★★
監督 クリント・イーストウッド
出演 マット・デイモン/セシル・ドゥ・フランス/フランキー・マクラレン/ジョージ・マクラレン/ジェイ・モーア/ブライス・ダラス・ハワード/マルト・ケラー
ナンバー 16
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


死者は恐れるべきものなのか、それとも生きている人々にそっと寄り添って見守ってくれているのか。死後の世界は特別な人のみが覗き見られる特殊な現象なのか、目に見えないだけで遍在しているのか。霊能者、臨死体験者、そして兄弟をなくした少年、物語は、死を身近に感じる体験をした人々を通じて“あの世”を肯定する。そこにはもはや時間や空間の概念はなく、あるのは死者の思念のみ。とらえ方は違っても、この世には死者の「伝えたかった思い」が満ちている。それは生きている者の心にあり、気づかれるのを待っている。


ジャーナリストのマリーはバカンス中に津波に遭い臨死体験をする。サンフランシスコのジョージは霊視に疲れている。ロンドンのマーカスは双子の兄を事故で亡くす。マリーは真実を求め、ジョージは癒しを求め、マーカスは喪失感を埋めようと、それぞれ行動を起こす。


死後のヴィジョンを見てしまったマリーは仕事をなげうってその研究に没頭し、死は暗黒の「無」ではなく新しい何かの始まりではないのかと仮説を立てる。しかし、客観的な証明ができるはずもなく、己の体験を語るのみで、結局信じることでしか死後の世界は存在しえない。それは死んだ後にも忘れられたくないという、人間の強い願いが作り上げたのだろう。ジョージの「交信」とは、相談者の「死んでしまった大切な人」の思い出を読んで、相談者が望んでいることを言葉にすることなのだ。ジョージ自身はそれを死者との対話と解釈しているが…。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、運命の糸に導かれるようにマリーとジョージは出会う。マリーを呼び出したジョージは、彼女とキスするヴィジョンを見るが、これはジョージの願望。同じ能力を身につけつつあるマリーならば自分の孤独を理解し苦悩を分かち合えると期待したはずだ。もしかしたらあの世は「脳内現象」にすぎないのかもしれない、それでも愛の記憶は、愛した本人は死んでも愛された方が覚えている。だからこそ命あるうちに真剣に誰かを愛せ、映画は見る者にそう訴えかける。