こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キッズ・オールライト

otello2011-02-10

キッズ・オールライト The Kids Are All Right

ポイント ★★★*
監督 リサ・チョロデンコ
出演 アネット・ベニング/ジュリアン・ムーア/マーク・ラファロ/ミア・ワシコウスカ/ジョシュ・ハッチャーソン/ヤヤ・ダコスタ
ナンバー 28
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


幼いころは不思議に思わなかったのに、物心ついたころから世間から好奇の目で見られ不愉快な思いをしてきた。レズカップルの家庭に生まれた子供たちの少し屈折した気持ちが繊細に再現される。躾が厳しく口うるさいママと開放的なもうひとりのママ。一見平和に見える家族なのに各々の胸に複雑な感情を抱えている。そしてそのバランスは子供たちの遺伝上の父の登場で崩れてしまう。映画は自由に生きてきた親の世代と、親の自由の代償を払わされてる娘と息子の葛藤を通じ、家族であることの難しさを掘り下げる一方、その素晴らしさを謳いあげる。


同性結婚したニックとジュールスにはそれぞれジョニという娘とレイザーという息子がいた。だが、ジョニとレイザーが遺伝上の父・ポールに会った日からファミリーの間にちいさな疑惑が影を落としはじめる。


医療関係者のニックが一家の生計を支えていて、家のルールは彼女が決めている。彼女の娘・ジョニは母の言いつけを守りながらも不満が爆発寸前だが、いつしかポールの男らしさに今まで知らなかった“父親”のありがたさを感じていく。ジュールスはニックに“養われている”現状に負い目を感じ外で働くうちにポールと親しくなる。この家の唯一の男・レイザーは女たちの心理戦から距離を置いているが、ポールとは気心が通じた気になっている。お互いが愛と信頼で結ばれているはずなのに、秘密を持ち嘘をつかなければならなくなった瞬間に空中分解しそうになる。それは世間とはちょっと違った家族にとって逃れられない宿命なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


せっかくポールの存在を認めたジョニは、ポールとジュールスの浮気を知って深く傷つき、その怒りはジュールスではなくポールに向かう。初めて心を許した男に裏切られた辛さと、ただでさえデリケートな家族に余計な波風を立て、さらに自分がいなくなった後の事を心配してのことなのだろう。結局、ポールを家族から締め出して一家は絆を取り戻すが、もはやかつてのような関係には戻れない。それでも「今」を大切にすればきっと未来は明るくなる、そんな願いがこもった映像は見る者にあたたかい思いを残してくれる。