こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

洋菓子店コアンドル

otello2011-02-14

洋菓子店コアンドル

ポイント ★★*
監督 深川栄洋
出演 江口洋介/蒼井優/江口のりこ/加賀まりこ/戸田恵子
ナンバー 37
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


鈍感だが一生懸命、ドジなのに自信たっぷり、厭味を言われてもへこたれず、どんな時にもまっすぐにぶつかっていくヒロインは、つい応援したくなるほどキュートだ。彼女が一人前のパティシエとして成長していく姿と、人生のどん底をさまよう伝説のパティシエが立ち直っていく過程をシンクロさせる構成は、甘さの中にビターを利かせたチョコムースのような絶妙な味わいを見せる。彼らが作る“食べた人が幸せになるスィーツ”は、鮮やかな色使いと柔らかな舌触りで再現され、見る者の心までとろけさせてくれる。


恋人を追って上京してきたケーキ職人の娘・なつめは、コアンドルという洋菓子店で腕を試されるが不合格、シェフの依子が出したムースに思わず感動して住み込みで働き始める。だが、娘の事故死以来キッチンに立てなくなっている十村に、なつめが作るケーキはまたも批判される。


先輩に怒られても聞えよがしに口答えしたり、元恋人の夢を頭から否定したり、つい本心を口にするなど、なつめは場の空気が読めないところがある。ところが鹿児島弁丸出しの言葉使いで、相手に怒る気を失わせてしまうのだ。そのあたりのキャラクター設定がユニークで噴き出しそうになった。一方の十村は「子供を亡くした悲劇の主人公」のイメージを払拭してもう一度現役に戻りたいと思っているのに、なかなかきっかけがつかめない。彼はなつめのように損得勘定抜きで強力に後押ししてくれる人を待っていたに違いない。そんな男の意地と切なさを江口洋介が背中で表現していた。


◆以下 結末に触れています◆


その後、依子が転倒して大けが、コアンドルは店を閉めると同時に、晩さん会のデザートの注文も受けられなくなる。味が変わると客が離れていき、シェフひとり欠けると店が存続できなくなるといったこの業界の厳しさもきっちりと描き込まれる。結局この事件を機に十村がコアンドルを手伝い、彼も再び自分の道を歩き始める。普段何気なく口にするスィーツにはこれだけの人の思いが注ぎ込まれている、だからこそ食べた後に笑顔になれることが伝わってくる作品だった。