こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イヴ・サンローラン

otello2011-02-23

イヴ・サンローラン YSL L'AMOUR FOU

ポイント ★★*
監督 ピエール・トレトン
出演 ピエール・ベルジェ/イヴ・サンローラン
ナンバー 36
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


“アーティストは時代に沿いながら変革をもたらす”。その言葉通りに、常に世間の一歩先を行きモードを引っ張ったきた男の半生は、若くして大成功を収めた人間の例にもれず、甘き香りに酔うのもつかの間、誰にも理解されない孤独と周囲の期待というプレッシャーに押しつぶされ、酒とドラッグにおぼれていく。栄光と挫折そして再生、映画は20世紀後半のファッション界をけん引したデザイナーが歩んできた歴史を、彼の公私にわたるパートナーのインタビューと膨大な写真・映像から再構成し、フランス文化の誇り高さと奥の深さを描く。服飾デザインをアートととらえ、デザイナーの社会的地位が非常に高い、これこそがパリが世界の流行の震源地であり続けるパワーの源なのだ。


ディオールの弟子だったイヴ・サンローランは21歳でディオールの後継者となる。初めてのコレクションは絶賛を浴び一躍有名になるが、徴兵検査に不合格になり、神経症になってふさぎこんでしまう。


イヴの公私にわたるパートナーだったベルジュが、主のいなくなったメゾンに放置されたおびただしい絵画彫刻などの美術品を梱包させ、オークションに出品する。最低でも100万ユーロ、中には1000万ユーロを超える値段がつくものまである。それらはすべて生前のイヴが愛した、いわば彼の分身。蒐集にどのような傾向があるのか考察は加えられないが、素晴らしいアートに数多く触れ、クリエーターたちと創造の苦悩を共有することが、イヴに新作のインスピレーションを与えていたのではないだろうか。


◆以下 結末に触れています◆


圧巻はフランスW杯会場でのショー。ランウェイを間近に見るのではなく、スタジアムを俯瞰して初めてその全容が分かる壮大なスペクタクルだ。それは、女性解放のムーブメントは政治や行政からではなくファッションから始まった事実を如実に物語っていた。