こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

英国王のスピーチ

otello2011-02-28

英国王のスピーチ The King's Speech

ポイント ★★★★
監督 トム・フーパー
出演 コリン・ファース/ヘレナ・ボナム=カーター/ジェフリー・ラッシュ/マイケル・ガンボン/ガイ・ピアーズ
ナンバー 51
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


数千の目に射竦められて萎縮し、つい口籠る。緊張のあまり頭の中が真っ白になる場面は胃を締め付けるような緊迫感で主人公の気持ちを再現する。期待が不安に変わり最後には失望をあらわにする、聴衆の表情が見えているだけにますます焦りが募り、とうとう退席してしまう。映画はそんな彼が言語療法士の指導のもと吃音を矯正し、苦難の時を乗り越えるシンボルになるまでを描く。こういう事実が活字になり映像化される、あらためて“開かれた英王室”を実感する。もし「天皇玉音放送」などという映画ができても上映する勇気のある映画館は日本にはないだろうな……。


英王子ケント公は父王の代わりに演説台に立つが大失態を演じ、役者崩れのライオネルの療法を試して徐々に吃音を克服していく。その後、兄王に代わって王位を継承しジョージ6世となるが、一方で独ソの台頭で威厳ある王を望む声が人々から高まる。


ライオネルはケント公をバーティと呼びあくまで人として対等だとを強調、口の筋肉をふるわせ、床に転がり、4文字ワードを叫ばせて、バーティをリラックスさせる。彼らの関係は国王に即位しても変わらない。国王といってもひとりの人間、いや国王だからこそ責任の重さから来るプレッシャーは余人には計り知れない。その苦悩をコリン・ファースはかすかに怯えの色を帯びた目と筋肉をひきつらせた口元で見事に表現していた。


◆以下 結末に触れています◆


戴冠式を無事終えたジョージ6世が、家族とヒトラーの演説フィルムを見るシーンが印象深い。歯切れ良いかつぜつ、情熱的なアクション、魅了される群衆。指導者の熱意が電波や映像で民衆に届くようになった時代、国王も積極的に感情をこめた話し方で民衆に訴えなければならない現実を知る。クライマックスの、決して饒舌ではない、だが一言一言かみしめるように間をとった戦争突入を告げるラジオ演説は、非常事態に直面した英国民の心を一つにする。生放送を終え自信を取り戻したジョージ6世がライオネルにWの発音を指摘されて「わざとだ」と応えるエピソードでは威厳すら身につけている。そして「My friend」と呼ぶジョージ6世に対して「Your Majesty」と臣下の礼を示すライオネル。大役を終えたジョージ6世はライオネルにやっと敬意に値する国王と認められるのだ。明瞭な発音、明確なビジョン、何よりこの人についていけば大丈夫と思わせる声のトーン。リーダーに必要な資質は、言葉が持つ魔力を自分の魅力にする能力であることを証明していた。