こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アジャストメント

otello2011-03-12

アジャストメント THE ADJUSTMENT BUREAU


ポイント ★★★
監督 ジョージ・ノルフィ
出演 マット・デイモン/エミリー・ブラント/テレンス・スタンプ/アンソニー・マッキー
ナンバー 56
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


運命とは定められたものなのか、それとも独力で切り開いていくものなのか。自分の未来が望まぬ結果に変えられたと知った主人公が、強靭な意志で本来あるべき道に戻そうとする。彼は愛という感情に支えられ、そのエネルギーは人知を超越した者たちでさえ翻弄し、心の叫びに忠実に生きる大切さを訴える。映画は“運命”という命題に“調整局”を名乗る組織を介在させ、運命は決まっているけれど突発的な例外もありうると示唆する。本来ロマンチックな題材なのに強烈な不快感を覚えるのは、他人に管理され監視されることへの息苦しさにほかならない。


若くして上院議員を目指すデヴィッドは、選挙に破れ失意にくれているとエリースと名乗る女と出会い意気投合、激しくキスを交わす。その後ふたりは偶然バスで再会するが、運命の書の記述に反する出来事と“調整局”に無理矢理別れさせられる。


3年後、政治家としてさらなる飛躍を目指しながらもエリースを忘れられないデヴィッドはついに彼女を見つけ、エリースへの思い成就させようとする。しかし、将来の大統領と目されるデヴィッドにとってキャリアのマイナスでしかないと、調整局は妨害を続ける。他者の干渉で恋を諦めるなど不可能とデヴィッドは調整局に逆らい、彼らの持つ運命の書を自らの力で書きかえようとする。このあたり、運命への反逆自体がデヴィッドの運命だったのではといったパラドックスを内包し、やはり未来は未確定であると安心させてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


クールで無機質な映像、官僚のような服装の調整局員たち。これは神と人間の物語などではなく、コンピューターに頼りモニターされるのが日常となった現代社会のメタファーなのだ。クラウドに蓄積された膨大な個人情報、そしてそこから予測される消費傾向。企業がサービス向上に利用している間はよいが、国家がデータベースを悪用し始めたときに起きるであろう徹底した国民に対する監視と管理。作品はデヴィッドとエリースの逃避行を擬して、戦わなければ人生すら権力に操作されれかねない恐怖を描き切っていた。