こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

4月の涙

otello2011-03-14

4月の涙 KASKY

ポイント ★★★
監督 アク・ロウヒミエス
出演 サムリ・ヴァウラモ/ピヒラ・ヴィータラ/エーロ・アホ
ナンバー 61
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


男は殺され、女は犯されてから殺される。敵に対する容赦なき制裁、国と国の戦争ではなく同国民同士の階級闘争においては、俘虜への情けなど一切必要ないとばかりに、降伏した彼らに銃弾を撃ち込む。もはや良心などほとんどなく、あるのは人間を凶暴な野獣に変える狂気のみ。映画はそんな状況に置かれたインテリ階層の苦悩を、1人の女捕虜の扱いを巡って重層的に描く。あくまで理性的に振る舞おうとする准士官、信念を曲げない女赤軍兵、そして人文主義の大家といわれた軍事裁判所判事。愛も理想もヒューマニズムも、圧倒的な暴力の前ではうたかたのごとき非力なものに過ぎないのだ。


1918年、内戦中のフィンランド赤軍女性部隊は白軍に包囲され投降するが、捕虜の女たちは全員白軍兵にレイプされた上に銃殺される。白軍兵のアーロは唯一の生き残りのミーナに裁判を受けさせようと移送するが、途中海に転落、ふたりは無人島に漂着する。


軍規を守りミーナを保護するアーロは、ミーナの誘惑に耐える一方で彼女の美しさに心を奪われていく。女である悲劇に見舞われながらも、女の武器を使って生き延びようとするミーナ。裁判を受けるために収容所に到着した後も、その姿態で判事のエーミルに媚びを売り、美貌という鎧の下から感情を小出しにして男たちの心理を翻弄していく。まさに志願して銃を手にした女ならではの奸智、サバイバルこそ勝利であることを熟知したミーナの姿は女の強かさを象徴していた。


◆以下 結末に触れています◆


ミーナに代表される“民衆の怒り”とは対極的に、エーミルの抱える“知識人の孤独”が鮮明だ。戦場では自分と語り合えるほど教養のあるものは皆無、ゲーテの詩を諳んじるアーロとの出会いは僥倖だったはず。だれにも打ち明けられなかった同性愛をアーロに理解してもらうために、ミーナの身の安全を保証し妻まで差し出す。しかしその秘密は部下に知られてはならない。追手を放ったのは、ミーナを殺そうとすればアーロが命がけで守ろうとする確信があったからだろう。エーミルの葛藤が、同胞が殺し合う悲惨さ以上に強烈な印象を残す作品だった。