こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ

otello2011-03-16

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ
EXIT THROUGH THE GIFT SHOP


ポイント ★★*
監督 バンクシー
出演 ティエリー・グエッタ/スペース・インベーダー/シェパード・フェアリー/バンクシー
ナンバー 62
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ただスプレー缶で意味不明の文字をマーキングするだけの下等ないたずらとは一線を画し、きちんと下絵を描いたステンシルを現場に持ち込んでディテールまで細密に残していく。人目を引くインパクトでデザイン的にも優れている、そんな絵を警備の目を盗んで短時間でビルの壁に仕上げるには、それなりの工夫が必要なのだ。映画はグラフィティアーティストの行動を記録するうちに、伝説のアーティストに密着することに成功したアマチュア映像作家が、とんでもない計画に巻き込まれていく様子を追う。なんか作り物の臭いもするが、あくまでドキュメンタリー、ゲリラ撮影の数々はスリルに満ちている。


誰にでもビデオカメラを向けるティエリーは、街で落書きを繰り返す自称アーティストたちをテープに収め始める。何人ものアーティストを追っていると、決して素顔を見せないがパフォーマンスは高く評価されているバンクシーの取材を許可される。


赤い電話ボックスを「く」の字に曲げたオブジェをロンドンの街に放置する。それが何を主張しているのか、答えは見る者の解釈に任せているのだろう。一方でパレスチナに設けられた高い分離壁にペイントを施すなど、バンクシーの活動はメッセージ性を帯びていたりもする。圧巻は、不当な扱いを受けているグアンタナモの捕虜を模した空気人形をディズニーランドに展示するシーン。荷物チェックの厳しい夢の国に悪夢をもたらす、その反逆精神と行動力こそまさにストリートアーティストの真骨頂。権威に媚びない姿が共感を呼ぶ。


◆以下 結末に触れています◆


ところがいつの間にかこの作品の主導権はバンクシーに移る。本来監督だったティエリーは彼の膨大なアーカイブの中から編集作業を始めるが、そのあたりからはもはや真剣なのかジョークなのか境界線があいまいになってくる。それでも己の中にくすぶっている「表現したい」というエネルギーを爆発させる、既成の枠にはまらない彼らの生き方がまぶしかった。