こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ほしのふるまち

otello2011-03-18

ほしのふるまち

ポイント ★★★
監督 川野浩司
出演 中村蒼/山下リオ/児玉絹世/KG/柴田理恵/羽田美智子/トミーズ雅/笑福亭松之助/手塚理美
ナンバー 64
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


何になりたいのか、何だったらなれるのか。そろそろ進路を決めなければいけないのに、世界の広さを知れば知るほど己の無力を思い知る。挫折感と焦燥感ばかりが募り、周囲の者がみな敵に見えてしまう。そんな少年の繊細な感情をハンディカメラが隅々まで覗き込み、ふがいない自分に対する怒りと諦観、そして希望と再生を丁寧に掬い取る。映画は日本海に面した小さな町を舞台に、1人の高校生が受験と恋の板挟みになりながらもしっかりとした夢を見つけるまでを描く。


留年を理由に東京から引っ越してきた恒太郎は心を閉ざしていたが、隣に住むクラスメート・渚と過ごすうちに、彼女が目指していた看護学校に進学せず就職しようとしていることを聞く。ある日、渚が想いを寄せている東京に行った大学生・正樹が帰ってくる。


東京では決して見られないような満天の星空。きらめきのひとつひとつが恒太郎を見守っているような優しい光を放つ。医学部を受験しろと母に言われていた恒太郎は文化祭でプラネタリウムを作りを手伝い、子供のころに星空が好きだった記憶がよみがえる。やっと見つけた将来の目標、渚も家庭の事情であきらめかけていた看護学校に再びトライする。思い通りにならない現実に悶々としていた彼らが、それぞれのスタート地点に向かって進みだしたとたんに表情に輝きを増していく姿が瑞々しい。苦悩する日々が一転して、弾けるような青春が鮮やかな色彩を帯びてくる、その高校生らしい転調の速さが非常にさわやかだ。


◆以下 結末に触れています◆


恒太郎はクラスの女子・栗田に迫られるが、イマイチ気が乗らない。渚も自信をなくした正樹に幻滅している。やがて、ふたりはお互いがいちばん大切な相手であると気づいていく。栗田と恒太郎が家の前で話しているときに渚が戻ってきて、3人が各々の気持ちを語るシーンは実験的ともいえる長まわしの1カットで、自在に動き回るカメラが奇妙なテンションとスピード感を醸し出し、なにより不安定な映像が彼らの揺れ動く心情を見事に表現していた。