こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

名前のない少年、脚のない少女

otello2011-03-26

名前のない少年、脚のない少女
OS FAMOSOS E OS DUENDES DA MORTE


ポイント ★★
監督 エズミール・フィーリョ
出演 エンリケ・ラレー/イスマエル・カネッペレ/トゥアネ・エジェルス/サムエル・ヘジナット
ナンバー 303
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


凡庸と評されるのはクリエーターにとって屈辱以外のなにものでもない。だが、それを避けるためにあえて語らず解説せずただ茫洋とした映像を投げ出すだけでは、誰も非凡とは認めないだろう。メタファーが暗示する主人公のおかれた状況と象徴が明示する彼の心理状態は何とか理解できるものの、恐ろしく断片的なシーンの連続はエピソードとして成立していないのだ。インターネットでワールドワイドにつながっているはずなのに、自分自身は田舎町から外に足を踏み出す勇気はない。ネットの中こそが彼の真実で日常は平凡極まりない借りの姿。そんな輪郭からは、少年がおかれた閉塞感のみが伝わってくる。


ネットに自作の詩を投稿するのが趣味の少年は、ある日動画投稿サイトで美しい少女を見つける。しかし、すでに少女はこの世におらず、彼女と心中しようとして死にきれなかった若者・ジュリアンが少年の前に現れる。


ネットに没頭するあまり頭の中が妄想に支配されていく、それでもなお理性が現実の世界に引きとどめている。映画はその境界線をあいまいにして、見る者の意識を混乱させようとする。その試みは成功し、結果として「なんかわけのわからない体験をした」という印象しか残らない。それはこの作品に答えを求める気持ちをあざ笑い肩透かしを食らわすかのような、つかみどころのない消化不良感。感覚は刺激しても決して感情や想像力にまで訴えてこない。


◆以下 結末に触れています◆


やがて少年はジュリアンの車に乗って町を出ようとする。ところが、たどり着いたのは街外れの変電所。そこで少年は自殺したはず少女とキスを交わすと、街中が停電する。もはや幻覚すらリアルな実感を伴う少年のイマジネーションの呪縛に、最後まで戸惑うばかりだった。。。