こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・ファイター

otello2011-03-28

ザ・ファイター THE FIGHTER

ポイント ★★★*
監督 デヴィッド・O・ラッセル
出演 マーク・ウォールバーグ/クリスチャン・ベイル/エイミー・アダムス/メリッサ・レオ
ナンバー 74
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


育ててくれた恩もあるし、今も心配もしてくれる。それを理解しているし、感謝もしている。その上で、この人たちと一緒にいると自分は一生羽ばたく機会に恵まれず終わることも分かっている。誰よりも濃い絆で結ばれた兄、すべてをなげうって応援してくれる母。映画はやっと才能が開花しようとした矢先に、家族という重荷に道を閉ざされそうになったボクサーの苦悩を描く。成功へのチャンスを棒に振ったような人々がたむろする環境で、そこから這い上がるのかいかに困難か。主人公は彼らとのしがらみを断ち切れずにもがく。その過程で、弟思いの男がさらけだすどうしようもない弱さをクリスチャン・ベールが好演、過去の栄光にすがり、堕落の淵で強がるしか能がない男をリアルに演じる。


S.R.レナードからダウンを奪ったのが唯一の自慢であるディッキーは弟のミッキーのトレーナーを務めているが、怠慢なうえドラッグにおぼれている。ミッキーはディッキーのマッチメークで重量級の選手と戦わされ、一方的にパンチを浴びてしまう。


何事にもだらしないディッキーなのに、ボクシングの目だけは確か。ミッキーのトレーナーをクビになった後も的確な指示を与え、おかげでミッキーは強敵にKO勝ちを収める。そばに置くにはあまりにも厄介な存在、ボクシングを続ける上では不可欠な参謀。己の夢と兄弟愛に板挟みになるミッキーもまた結論を出せない。このあたりの、人間のふがいなさをとことんまでさらけ出そうとする演出が胸にしみる。


◆以下 結末に触れています◆


ミッキーの周りには、ディッキーに加えて、母とたくさんの異母姉妹みながミッキーを愛していると見せかけて身勝手な計算をしている。いつかはここから抜け出したいがカネも能力もないのも知っている。そんな、人生をあきらめた低所得者が暮らす街の空気がこの一家に濃厚に凝縮されていた。それでも彼らはミッキーという希望にすがろうとする。その負け犬たちが放つ強烈な体臭を、躍動感あふれる映像が見事に再現していた。