こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

飯と乙女

otello2011-03-31

飯と乙女


ポイント ★★*
監督 栗村実
出演 佐久間麻由/田中里枝/岡村多加江/上村聡/岸健太郎/菊池透/増本庄一郎
ナンバー 72
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人はなぜ食べるのか、なぜ食べないといけないのか。飢餓から解放された21世紀の東京において“生きるため”という答えに意味はない。調理する者、食事を拒む者、幸せそうに食べる者、一度呑み込んだモノを吐きだす者、映画は3組の男女の「食」にまつわるスケッチを元に、人と食べ物の関わりを描こうとする。原始より、人間は食べ物を巡って争い、胃袋を満たして命の喜びを感じてきた。その本能というべき食べたい衝動を原点に立ってみつめなおす姿勢が好ましい。


OLの美江はグータラな同棲相手と妊娠から来るストレスで過食に走ってはトイレで戻している。ダイニングバーでコックをしている砂織は料理に口を付けない常連客・九条にカツサンドを渡す。美江の勤め先の社長・小中は会社の経営不振がもとで食事がのどを通らなくなる。


砂織が腕によりをかけた見た目も鮮やかな料理の数々と小中の妻が食卓に並べる豪快な大皿料理、一方でおかきばかりほおばる美江と食材を加熱しただけで口に入れる九条。栄養を摂るばかりでなく、彩りや香り・歯ごたえまで楽しもうとする砂織や小中の妻子と、食べること自体を忌避しているような九条と美江と小中。結局、美味しい食事は、同じものを一緒に味わえる家族や友人がいてはじめて成り立つ。それを楽しめない九条や小中や美江は孤独。テーブルを囲んで舌鼓を打つのは楽しい人間関係の基本なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、それぞれのキャラクターに現実感が薄いのも事実。美江が嘔吐を繰り返すのまだしも、資金繰りがひっ迫している小中が弁当や夕食を食べたふりをするのは、単なる食欲減退では説明がつかない。さらに九条の食癖に至ってはどう考えても異常で、その原因を明示すべきだろう。このあたり、登場人物の骨格にもっとしっかりと血肉を付け、共感できる部分があればテーマのユニークさが活きてきたはず。それでも、美江の母乳を飲もうとする夫の姿に、人がこの世に生れて最初に栄養分を口にする瞬間こそが、濃密なコミュニケーションの始まりであると、この作品は教えてくれる。