こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

メアリー&マックス

otello2011-04-05

メアリー&マックス MARY & MAX

ポイント ★★*
監督 アダム・エリオット
出演
ナンバー 77
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


心待ちしていた手紙が配達されていないかと毎日ポストをのぞく。日が浅いうちは期待に胸を膨らませているが、何週間も届かないと心配になってくる。さらに音信不通が続くと自分の言葉が相手を傷つけたのではと不安が募り、それでも音沙汰がないと無視されたと怒りに変わる。手紙で知己を得、身の上を打ち明けたたった一人の友達からの、いつ来るかわからない返事を待つ少女の心情がリアルだ。物語は文通で友情を築いた豪州の少女と米国の中年男の交流を通じ、“思いを綴る”行為によって我が身を見つめ直し、魂が触れ、衝突し、許し、やがて深く理解し合うまでを描く。


変人の両親と暮らすメアリーは家でも学校でも邪魔者扱い。ある日、電話帳で見つけた名前に手紙を送る。彼女の手紙を受け取ったマックスは早速返信をタイプし、ふたりの文通が始まる。


お互い会ったこともなく、遠くに離れているからこそオープンにできる胸の内。自閉症で周囲に馴染めないマックスにとってメアリーからの手紙は唯一の外部とのコミュニケーションで、メアリーがよこす不躾な質問にトラウマがよみがえって苦しんだりもするが、真摯に答えようとする。特に自己表現が下手で愛を感じてもうまく伝えられないマックスが、どんどん社会から取り残されていく過程が、NYという大都会の喧騒とは対照的な彼の孤独を強調する。一応、世間と交流しようとはするが、感情が安定しないゆえに踏み込んだ付き合いができないマックス。だが、彼はメアリーとの文通の中でそんな己を受け入れる術を学んでいく。他人を愛するにはまず自分自身を愛せ、映画はふたりの行動を追いながら、よりよい人生の指標を示す。


◆以下 結末に触れています◆


人には素直になれなかったふたりが手紙の中だけは正直になれる。その喜怒哀楽が柔らかなタッチのクレイアニメで感性豊かに再現される。ただ、あまりにもふたりに他者との交わりを持たないせいでエピソードのふくらみが乏しく、状況を説明するのにナレーションを多用したのが残念。やはり、メアリーとマックスの気持ちは彼ら自身のセリフや表情で描写してほしかった。