こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

津軽百年食堂

otello2011-04-06

津軽百年食堂


ポイント ★★*
監督 大森一樹
出演 藤森慎吾/中田敦彦/福田沙紀/ちすん/伊武雅刀
ナンバー 81
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


百年続いた店と味を継ぐ、それは商品を大切にするだけでなく食堂を開いた先祖、レシピを守ってきた祖父や父、世代を越えて通ってくれた地元の客に対する感謝をも引き受けること。近所はみんな顔見知り、強固な地縁血縁に支えられ、お互いに助け合って生きている地方都市の人々の共同体意識が、人間同士の絆を感じさせる。映画は、満開の桜と眼前に迫る岩木山という弘前の美しい風景を背景に、夢を抱いて東京に出た青年が行き詰り、故郷で新たな人生を踏み出す姿を描く。


バルーンアーティストの陽一は結婚式場で同郷のカメラマン・七海と知り合い、ルームシェアする。ある日、大衆食堂を営む父が交通事故にあい、祖母の電話で弘前に帰郷した陽一は、父の代わりに休業中のシャッターを上げる。


陽一も子供のころは黙々とそばを捏ねる父の背中に憧れていたはず。思春期くらいから家業が恥ずかしくなり、将来が限定されてしまう不満といら立ちから大学入学を機に家を飛び出したのだろう。しかし、就活に失敗し不安定な日雇労働で食いつないでいる陽一には、東京での生活は自己を見つめ直すための貴重なモラトリアム期間。やりたい目標が見つからない、そもそも何ができるのかもわからない、一方で時間は過ぎていく。きっと陽一はそんな日常を変えてくれるきっかけを待っていたのだ。厨房にすんなり収まったのは、陽一自身ほんとうはそば作りが好きだったからに違いない。まだ父には追い付かない、それでも自分のテイストで勝負する覚悟は身につけている。そのあたり、家業に未来を見出す決意がさわやかだ。


◆以下 結末に触れています◆


その後、名物の桜祭りで正式に跡取りとなる決心をする。曾祖父が苦労して築いた食堂をバトンタッチする時々に、次代の者は皆陽一と同じ葛藤があった過去を、陽一の父の言葉が物語る。伝統はそうやって踏襲される。そして、帰るべき場所とそこで暮らしていける仕事があるのがいかに恵まれているか。近年の就職難に鑑みるに、受け入れてくれる故郷のある若者がうらやましくなる。。。