こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

富江 アンリミテッド

otello2011-04-08

富江 アンリミテッド

ポイント ★★*
監督 井口昇
出演 荒井萌/仲村みう/多田愛佳/大和田健介/大堀こういち/川上麻衣子
ナンバー 82
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


肩のできものから伸びる長い舌、弁当箱に6つ並んだ小さな顔、宙に浮く生首etc.…。ヒロインに憑りつく悪霊の数々はまるで古い遊園地のお化け屋敷に出てくるような質感で、恐怖よりもむしろ懐かしさを覚えてしまう。また、娘の顔がいくつも連なった大ムカデのような怪物や巨大化した顔など、その見せ物小屋的なおどろおどろしさは、今までに見た経験がない新境地。その上、わざとらしいまでに大げさな俳優の演技とまとまりのないエピソードは奇妙な脱力感がともない、無駄に緊張せずに見られる稀有なホラー映画となっている。


カメラが趣味の月子が美しい姉・富江を撮影中、工事現場から鉄パイプが落下、富江の体を串刺しにする。1年後、月子の家に富江が帰っくると、両親は彼女のいいなりになって月子を折檻する。その後、富江が家を出ていこうとすると、父が富江を刺し殺してしまう。


富江はいったい何者なのか? 「月子の姉」の富江は1人のはずなのに、いつの間にか増殖してあちこちに出没するだけでなく、月子の親友・佳恵の肉体まで奪ってしまう。そして柔道部員に首を刎ねられ首なしになった佳恵が月子を追いかける姿は、もはや笑わずにいられないほどシュールな光景となって見る者に迫ってくる。脈絡のないシーンの連続はどこまでが月子の悪夢でどこからが現実なのか、境界が曖昧になるにしたがって月子が味わう混沌がリアルな感触となっていく。


◆以下 結末に触れています◆


うなされ通しの浅い眠りから覚めた月子は、両親から“ひとり娘”だと聞かされ、富江の存在を否定される。しかし次の瞬間、またもや両親は異形に変貌しなぜか月子に襲い掛かる。やはり「富江」とは、月子の心の中に潜む“悪意”を抽出し煮詰めた結晶なのだろう。自分の思い通りになってくれない周囲の人々すべてを殺すこと、その中には月子自身も含まれている。街中に溢れる不気味な笑みを浮かべる富江の分身たちは、月子の秘めた願望が実現した結果なのだ。。。