こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パーフェクト・ホスト

otello2011-04-19

パーフェクト・ホスト PERFECT HOST

ポイント ★★*
監督 ニック・トムネイ
出演 デヴィッド・ハイド・ピアース/クレイン・クロフォード
ナンバー 89
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


脅したつもりが脅される、人質を取ったつもりが人質にされている。不運な犯罪者と妄想に取りつかれた変質者が織りなす意表を突いた展開は、不思議の国に迷いこんだような戸惑いをもたらす。シュールで奇妙、スタイリッシュでアンバランス、どこかボタンをかけ違えた感覚が非常に新鮮だ。またコンビニ強盗に渡す紙幣を入れる袋の種類をわざわざ尋ねたり、足の傷を治療するのかと思いきや床の血を拭うなど、ウイットに富んだやり取りが緊張をほぐしてくれる。その意外性とユーモアのセンスに、Q.タランティーノに出会った時の衝撃を思い出した。


逃走中の銀行強盗・ジョンは負傷した上に武器も財布もなくし、高級住宅地にあるウォーウィックの家に転がり込む。親切にもてなすウォーウィックにジョンはおとなしくしていたが、ラジオ放送が原因でジョンはウォーウィックにナイフを突き付ける。


導入部、車と自転車を乗り継いで必死に走るジョンの息遣いが、観客をただならぬ世界に引きずり込む。やっと招き入れられたウォーウィックの家は高価な家具調度に囲まれ、彼の慇懃だが鼻につく態度はただものではない臭いを発散させている。ジョンにとって異次元の上流階級の人間は、なかなか感情が読めない。しかし見知らぬ自分を客として歓待してくれる。善人みたいだが腹に一物抱えているようでもある。カメラはジョンの胸に交互に浮かぶ安堵と不安を克明にとらえ、極限にまで膨らんだ彼のフラストレーションに思わず背筋が固まってしまった。


◆以下 結末に触れています◆


目覚めたジョンは椅子に縛りつけられ、ウォーウィックのゲストたちとディナーを相伴する羽目になる。ところが、客たちはジョンの目には見えない。自由を奪われたジョンはウォーウィックの歪んだ心にいたぶられ、やがて彼の恐怖と絶望は頂点に達する。物語はさらに三転四転し、予想もしなかった方向に進む。だが、そこに至る過程でウォーウィックのキャラクター設定が破たんしたのが残念だった。