こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

奇跡

otello2011-04-22

奇跡

ポイント ★★*
監督 是枝裕和
出演 前田航基/前田旺志郎/オダギリジョー/大塚寧々/橋爪功/樹木希林/夏川結衣/阿部寛/長澤まさみ/原田芳雄
ナンバー 49
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


鹿児島で母と暮らす兄、福岡で父と暮らす弟。小学生の2人はもう一度家族を元に戻したいと思っている。簡単にいかないのは分かっている。それでも自分たちの願いと行動はきっと両親に通じ、家族の絆で結ばれていたころに帰れるのではと期待している。心配性で理屈っぽい兄と楽天的で開放的な弟、各々の長所がお互いの短所を補うかのような2人の性格は、そのまま両親の気質が遺伝していておもしろい。そんな子供たちが、子供たちなりに悩み、知恵を絞り、大人の力を借りずに冒険しようとする姿がたくましくも微笑ましい。映画は、この年齢ならではの正直さと、芽生え始めた他人への思いやりや独立心といった繊細な感情をリアルに描く。


航一と龍之介は別居中の両親とそれぞれ同居している。九州新幹線上下線が開通後最初にすれ違う時に奇跡が起きるという噂を耳にした航一は、その現場を見ようと友だちと計画を立て、龍之介にも打ち明ける。


龍之介はお調子者を装っていながら誰よりも傷ついている。ぐうたらな父に似ていると言われ母に嫌われていると思い込んでいるからなのだが、母と電話で話すシーンは彼の本心が垣間見え、寂しさを親に見せまいとするその健気な気遣いが胸を打つ。彼を演じた前田旺志郎の好演が物語を湿っぽさから救っていた。一方の航一は、思い通りにならない事だらけの世界に「わけわからん」と文句を垂れつつも、頑張って努力すれば幾分かの夢は実現することは学んでいる。まだ世間ずれはしていないが、少し嘘をつくワザも覚えた航一は、陰が濃い分、龍之介と好対照をなしていて、ストーリーのアクセントになっている。


◆以下 結末に触れています◆


この作品も脚本・監督・編集と是枝裕和監督が1人でこなしているが、編集作業は第三者に任せた方が良かったのではないだろうか。もちろん監督にとって無駄なカットなど一つもないはずだが、見る者にとっては冗長なシーンが散見した。それらを断捨離してあと15分上映時間を短くすれば、もっと引き締まった印象になったに違いない。