こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テンペスト

otello2011-04-26

テンペスト THE TEMPEST

ポイント ★★*
監督 ジュリー・テイモア
出演 ヘレン・ミレン/ラッセル・ブランド/リーヴ・カーニー/トム・コンティ/クリス・クーパー/
ナンバー 95
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


空を舞い水に揺らめく妖精は契約に従っていいなりになるしかない。言葉巧みに住み処を簒奪された怪物は奴隷に身を落とされ小枝運びの重労働に悪態をつく。女主人の魔法に縛められた者たちの怒りや苦悩、後悔、そして自由へのわずかな希望。そんな胸の内を俳優たちは表情だけでなく、指先からつま先まで使って表現する。この大げさな所作は演劇の舞台用のもの。一方で、ヒロインの魔法が作り出す巨大な嵐や炎を帯びた猛犬などはCGでより具体的に視覚化され、魔術と科学の境界が曖昧だった時代の人間の心理を再現する。愛と嫉妬、復讐と姦計、憎悪と寛容。それらの感情は時を越えて共感を呼ぶ。


魔女・プロスペラが起こした暴風雨でナポリ王の船が難破、王の一行4人と、王子、乗組員らがプロスペラの島に漂着する。プロスペラは妖精・エアリエルを使って彼らを監視しつつ、王子と娘のミランダを結びつけようとする。


プロスペラはかつて弟・アントーニオの裏切りで故国を追放され、ナポリ王の配下となった彼への仕返しするチャンスをうかがい、エアリエルを使って仲間割れさせようと目論む。ミランダは初めて見る人間の男・フェーディナンに心を奪われ、ふたりは永遠の愛を誓う。他方プロスペラの奴隷・キャリバンは執事・ステファンに酒で買収されるなど、そのあたりは原作通りで物語の流れは悪い。それでもシェークスピアの紡ぎだした格調高いセリフの数々を耳にしているだけで豊饒な気持ちになってくる。


◆以下 結末に触れています◆


やがてプロスペラはアントーニオに積年の恨みを晴らす機会を得る。だが、そこで大いなる許しを示し魔法の杖を海に向かって投げ捨てる。岩に砕けた杖が無数の本になって海に沈んでいくのは、プロスペラもまた自分自身をがんじがらめにしていた魔法から解き放たれた証。シェークスピア最後の戯曲は、400年の年月を経て、壮大なイマジネーションとCGという魔法の表現技術のおかげで21世紀に見事によみがえった。