こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

まほろ駅前多田便利軒

otello2011-05-02

まほろ駅前多田便利軒


ポイント ★★*
監督 大森立嗣
出演 瑛太/松田龍平/片岡礼子/鈴木杏/本上まなみ/横山幸汰/柄本佑
ナンバー 103
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


友情を感じるほど親しくはなく、赤の他人と呼ぶには近すぎる。ウマが合うわけでもないが、いなくなると寂しい。人生のレールからドロップアウトはしたがまだあきらめてもいない。熱くも深くも強くもない、ただ中学の同級生だっただけの男ふたりのユル〜い日常が心地よい。そんな彼らでも生きていればさまざまな人と出会い、予期せぬ出来事に巻き込まれていく。映画は田舎と都会の空気が入り混じった町のサイズに合わせたように暮らす彼らの四季を丁寧にすくい取る。人情時々ミステリーといった原作のイメージを踏襲しつつ、時間はゆったりと流れていく。


駅前で便利屋を開く多田は、久しぶりに再会した行天とともに客から預かったチワワを返しに行くが、新しい飼い主を探すハメに。行天はそのまま多田の事務所に居着き、彼の持つ不思議なオーラは、訳アリの客たちの心を開いていく。


終始人を食った態度で怠け者なのに、人に警戒心を抱かせない行天。彼を演じる松田龍平の「真面目に不真面目をやっている」 雰囲気が長回しのカットの中で何をやらかすのかわからない緊張感をもたらす。大した事件は起こらない、それでも依頼された仕事を片づけて終わりだった多田に、客たちが抱える事情を解決してやるのが本当の顧客サービスであると教えていく。もちろん本人は意図しているのではない、その押しつけがましさのないところがとぼけた味わいを出している。


◆以下 結末に触れています◆


子の面倒を見ない母親、血のつながらない息子を心底から心配する母親、そういった親たちと接するうちに、多田にも行天にも「子供」が共通の苦い過去であることが明らかになっていく。「親がいない子供と、親に無視される子供、どちらがひどいか」、多田が発する問いはそのまま、「子供に死なれた親と、子供に存在を知られていない親のどちらが悲劇か」という、彼らがおかれた現状につながっていく。似ているけれど少し違う、違うけれど子供への思いに変わりはない。実は同じトラウマを負った者同士だったふたりが、最後には離れがたい気持ちに変化していく過程が優しさに満ちていた。