こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アンノウン

otello2011-05-10

アンノウン UNKNOWN


ポイント ★★★*
監督 ジャウム・コレット=セラ
出演 リーアム・ニーソン/ダイアン・クルーガー/ジャニュアリー・ジョーンズ/エイダン・クイン/ブルーノ・ガンツ
ナンバー 110
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


自分はいったい誰? 記憶のみならず、一切の身分証明をなくした男が途方に暮れ、ヒントを探し、真実を求めてさまよう。ところが、わずかによみがえった妻との思い出も否定され、あらゆる自己認識が崩壊していく。映画は交通事故に遭った男が経験する奇妙な世界に観客を放り込み、主人公と同じ感情を体験させる。それは今までに味わったことのない不思議で不愉快な感覚。まるでパラレルワールドに迷い込んだようなリアルな悪夢となって五感を刺激する。


学会に出席するためにベルリンにやってきた植物学者・マーティンは、忘れ物を取りに空港に戻る途中タクシーが川に転落する。昏睡状態から目覚めホテルに戻ると、妻から「知らない男」と言われた上、マーティンを名乗る別の男が現れる。その男はマーティン名義のパスポートだけでなく、妻との記念写真まで持っていた。


マーティンは救けてくれた運転手・ジーナを探し、さらに調査のプロを雇う。その過程で殺し屋に襲われ、何らかの陰謀に巻き込まれているのを悟る。断片的な光景は浮かぶが肝心な出来事は思い出せない。そのいら立ちが募るなかで、ジーナともども命を狙われる。そこで描かれる心理的サスペンスは非常にテンションが高く、カーアクションなどの物理的スリルは手に汗握る。何より、どこまでマーティンが真相に迫っていっても、これはすべてマーティンの脳が創造した「壮大な妄想」ではないかという疑心暗鬼が付きまとって離れない。一方、圧倒的にスピーディな展開がじっくり考える暇を与えない。


◆以下 結末に触れています◆


学者がなぜあれほどタフなのか、運転がうまいのか、サバイバル能力に長けているのか、そしてマーティン自身が忘れていた彼の正体は……。そうした疑問に答える終盤は、張り巡らされた伏線が一気に解決する爽快感に浸れる。ただ、マーティンの上司が「冥土の土産に教えてやろう」的に種明かしをするのはツメが甘いし、暗殺計画を未然に防いだくらいでマーティンが良心を取り戻した気になるのは安易。己が汚れた組織の象徴だった過去をきちんと清算する、つまりセクション15を壊滅させるまでは贖罪にはならないのではないだろうか。。。